こんにちは、臨床検査技師のさいです。
第71回臨床検査技師国家試験 午前「病理組織細胞学(問45〜58)」を1問ずつ詳しく解説まとめしています。
病理組織細胞学は、HE染色や特殊染色、細胞診、標本作製、画像問題など幅広い知識が問われる分野です。一見すると暗記科目に思えますが、「なぜその工程が必要なのか」「なぜそのように染まるのか」を理解すると、問題が解きやすくなります。
本記事では、現場で働く臨床検査技師の視点も交えながら、できるだけイメージしやすい言葉で解説しました。国家試験対策はもちろん、病理実習や日々の復習にも活用していただければ幸いです。
※本記事の問題文および選択肢は、厚生労働省が公開している「第71回臨床検査技師国家試験問題および正答」をもとに掲載しています。
問45:組織標本作製における脱灰法
【問題】
組織標本作製において脱灰の適温が最も高いのはどれか。
- 1.塩酸法
- 2.硝酸法
- 3.トリクロロ酢酸法
- 4.エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉法
- 5.プランク・リクロ〈Plank-Rychlo〉法
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正答:4
【問題の考え方】
この問題は「酸脱灰」と「EDTA脱灰」の違いを知っているかを問う問題です。酸による脱灰は加温すると組織を傷めるため室温で行います。一方、EDTAはキレート剤なので組織障害が少なく、反応を早める目的で加温して使用できます。この対比を覚えておけば解けます。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.誤り(塩酸法)
強い「酸」です。脱灰スピードは速いですが、組織を傷めるリスクが高いため、必ず室温(またはそれ以下)で行います。 - 2.誤り(硝酸法)
最も強力な「酸」です。非常に迅速に脱灰できますが、組織障害が激しいため、やはり室温以下で使用します。 - 3.誤り(トリクロロ酢酸法)
比較的穏やかな「酸」で、骨髄などの微細構造の保存に適していますが、酸であることに変わりはないため室温で使用します。 - 4.正しい(エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉法)
酸ではなく中性付近で働く「キレート剤」です。組織や抗原性をほとんど傷めないのが最大のメリットですが、脱灰に数週間から数ヶ月かかるほどスピードが遅いという弱点があります。組織が傷みにくい性質を利用して、反応速度を上げるために加温(37℃〜40℃程度)して使用されるのが一般的です。EDTA法は脱灰に時間がかかりますが、その分、核や抗原性が非常によく保たれます。そのため、免疫染色や分子病理検査を予定している検体では、現在でも重要な脱灰法です。 - 5.誤り(プランク・リクロ〈Plank-Rychlo〉法)
塩化アルミニウム、ギ酸、塩酸を混ぜた強力な混合「酸」脱灰液です。迅速に脱灰できますが、酸脱灰なので温めると組織がダメになってしまいます。室温で使用します。
【関連知識】主な脱灰法の特徴まとめ
「酸かキレートか」と「脱灰スピード」をセットで覚えておくと応用が利きます。
| 脱灰法 | 分類 | 適温 | スピードと特徴 |
|---|---|---|---|
| EDTA法 | キレート剤 | 加温OK (37〜40℃) |
非常に遅い。組織障害が少なく、酵素や抗原性が保たれる。 |
| 硝酸法 | 強酸 | 室温 | 非常に速い。組織障害が激しい。 |
| 塩酸法 | 強酸 | 室温 | 速い。組織障害が大きい。 |
| トリクロロ酢酸法 | 弱酸 | 室温 | やや遅い。微細構造の保存に適する。 |
| プランク・リクロ法 | 混合酸 | 室温 | 迅速。電解脱灰法ではない。 |
間違えやすいところ
プランク・リクロ法についての勘違いが非常に多いです。
- プランク・リクロ法は電解脱灰法である → 誤り(電気を使うのではなく、3種類の薬品を混ぜた「酸」の脱灰液です)
- EDTAは酸脱灰法である → 誤り(EDTAは酸ではなく「キレート剤」です)
- EDTA法は迅速に脱灰できる → 誤り(最も遅い方法です。遅いからこそ、少しでも早く終わらせるために温めます)
- 硝酸法は抗原性の保存に優れる → 誤り(強力な酸なので、組織の構造や抗原のタンパク質が壊れてしまいます。抗原性を残したいならEDTAを使います)
覚えたいポイント
試験ではこの対比だけ思い出せれば十分です。
- ・酸脱灰 = 室温
- ・EDTA = 加温OK
- ・速いのは酸、きれいなのはEDTA
「酸(さん)は冷静(れいせい)、EDTAは温(あたた)めて急げ」や「酸は冷たく、EDTAは温かく」と覚えておくと忘れにくくなります。
さいの補足:なぜ酸を温めてはいけないのか?
酸の脱灰液を加温すると、脱灰スピードは確かに上がります。しかし、同時に細胞の核(DNAなど)が酸によって加水分解されてしまい、ヘマトキシリンで青く染まらなくなったり、組織全体が膨化してボロボロになったりしてしまいます。だから酸は室温でじっくり行うのが原則です。
一方、EDTAは中性付近(pH7.0〜7.4程度)でカルシウムイオンを優しく包み込んで抜き取る「キレート剤」です。酸ではないため、温めても組織の構造や染色性が綺麗に保たれます。
「酸でカルシウムを溶かす」のか、「EDTAでカルシウムをつかまえる(キレートする)」のか。この違いを理解すると、なぜ加温できるかもわかるようになります。
問46:ヘマトキシリンの色出しに使用する試薬
【問題】
ヘマトキシリンの色出しに使用するのはどれか。2つ選べ。
- 1.酢 酸
- 2.クエン酸
- 3.アンモニア水
- 4.炭酸リチウム
- 5.塩酸アルコール
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正答:3、4
【問題の考え方】
この問題は「分化は酸」「色出しはアルカリ」というHE染色の基本を問う問題です。色出し(青化)はアルカリ性で行うため、アルカリ性の薬品を選べば正解できます。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.誤り(酢酸)
名前の通り「酸性」の液体です。色出しはアルカリ性の環境で行うため、酸性の薬品は使いません。 - 2.誤り(クエン酸)
こちらもレモンなどに含まれる「酸性」の物質です。色出しには使えません。 - 3.正しい(アンモニア水)
「アルカリ性」の代表的な液体です。組織を染めたヘマトキシリンを青紫色へ変化させる(青化)ために使用します。 - 4.正しい(炭酸リチウム)
アンモニア水と同じく「アルカリ性」の液体であり、色出し剤として定番の薬品です。 - 5.誤り(塩酸アルコール)
強力な「酸性」の液体です。これは色出しの直前に行う「分化(染まりすぎた余分なヘマトキシリンを洗い落とす工程)」で使われます。
【関連知識】HE染色の全体的な流れ
分化と色出しがどのタイミングで行われるか、全体の流れを知っておくと関連問題も解けやすくなります。
↓
ヘマトキシリン染色
↓
分化(酸)
↓
色出し(アルカリ)
↓
エオジン染色
| 順番 | 工程 | 液の性質 | 代表的な試薬 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 染色 | 酸性 | ヘマトキシリン液 | 全体を赤紫色に染める |
| ② | 分化 | 酸性 | 塩酸アルコールなど | 核以外の余分な色を抜く |
| ③ | 色出し | アルカリ性 | アンモニア水、炭酸リチウムなど | 核を鮮やかな青紫色に発色させる |
間違えやすいところ
「分化」と「色出し」の薬品をすり替える引っかけが頻出です。
- 塩酸アルコールで色出しを行う → 誤り(酸性なので「分化」に使います)
- 炭酸リチウムで分化を行う → 誤り(アルカリ性なので「色出し」に使います)
一言で覚えるなら
HE染色の工程は、この一言で覚えられます。
「酸で削って、アルカリで青く。」
- ・分化 = 酸(塩酸アルコールなど)
- ・色出し = アルカリ(アンモニア水、炭酸リチウムなど)
酸で余分な色を落とし、アルカリで青く仕上げる。この対比をイメージしておきましょう。「青空はアルカリ」と覚えるのもおすすめです。
さいの補足:なぜ色出しが必要なのか?
ヘマトキシリンはそのままでは赤紫色をしていますが、アルカリ性に触れると鮮やかな「青紫色」に変わるという性質を持っています。細胞質をピンク色に染めるエオジン(酸性色素)との色のコントラスト(青とピンク)をハッキリさせて、顕微鏡で細胞の形を見やすくするために、わざわざアルカリ性の液に浸けて青く発色させています。
さらに詳しく言うと、ヘマトキシリンは核酸(DNA・RNA)と結合したあと、アルカリ性になることで安定した青色のレーキ(色素金属複合体)を形成します。このため、色出し後の方が核がくっきり観察できるようになります。
問47:喀痰のPapanicolaou染色標本(画像問題)
【問題】
喀痰のPapanicolaou染色標本(別冊No. 8)を別に示す。この細胞で判定するのはどれか。
- 1.感染の有無
- 2.腫瘍の組織型
- 3.病変の進行度
- 4.検査材料の適性
- 5.炭粉沈着の程度
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正答:4
【問題の考え方】
この問題は、画像の細胞が「肺胞マクロファージ(ダストセル)」だと分かるかどうかを問う問題です。肺胞マクロファージは肺胞内に存在するため、この細胞が見つかれば「肺の奥から採取できた喀痰」と判断できます。つまり、検査材料の適性を評価する細胞です。
【画像所見の読解】
画像(別冊No.8)を見ると、以下の特徴を持つ細胞が多数見られます。
- ・細胞境界がやや不明瞭で大型。
- ・細胞質が淡く、泡沫状(アワアワした感じ)になっている。
- ・核が円形〜楕円形で、細胞の端の方に寄っている(核の偏在)。
- ・細胞質の中に黒褐色のツブツブ(炭粉などのゴミ)を貪食している。
これらの特徴から、この細胞は肺胞内のお掃除係である「肺胞マクロファージ(塵埃細胞、ダストセル)」であると同定できます。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.誤り(感染の有無)
感染の有無は、好中球などの炎症細胞が多数集簇しているか、あるいは細菌や真菌などの病原微生物そのものが細胞内外に存在するかで判定します。マクロファージ単独で判定するものではありません。 - 2.誤り(腫瘍の組織型)
腫瘍が扁平上皮癌なのか、腺癌なのかといった組織型の判定は、喀痰中に現れた「異型細胞(がん細胞)」の形態(角化があるか、立体的な集塊を作っているかなど)を見て行います。マクロファージは良性細胞です。 - 3.誤り(病変の進行度)
細胞診は「細胞が良性か悪性か」を判定する検査です。病変がどこまで広がっているか(進行度・ステージ)は、細胞診だけでは判定できず、CTなどの画像検査や手術後の病理組織検査が必要です。 - 4.正しい(検査材料の適性)
肺胞マクロファージは肺胞まで到達しないと採取できない細胞です。そのため、この細胞が確認できれば「肺の奥から採取された喀痰」と判断でき、検査材料として適切であることを示します。 - 5.誤り(炭粉沈着の程度)
マクロファージが炭粉を貪食していること(ダストセル)は、この細胞を同定するための重要なサインにはなりますが、炭粉がどれくらい沈着しているかそのものを判定する目的で細胞診を行っているわけではありません。
【関連知識①】なぜマクロファージが「適性の指標」になるのか?
喀痰細胞診で最も困るのは、患者さんが痰を出せず、口の中の唾液だけを出してしまった場合です。
| 検体の状態 | 見られる細胞の特徴 | 判定 |
|---|---|---|
| 適切な喀痰 (肺の奥から出たもの) |
肺胞マクロファージ(ダストセル)や、線毛円柱上皮細胞が見られる。 | 検査適(合格) |
| 不適な材料 (ただの唾液) |
口腔内の扁平上皮細胞ばかりで、マクロファージが全く見当たらない。 | 材料不適 (再提出) |
肺胞マクロファージが見られない場合は、「この中にがん細胞がないとしても、肺の奥から取れていないのだから『陰性』とは言い切れない」と判断され、「材料不適・再検査」となります。
【関連知識②】細胞診の判定クラス一覧
検体が適切(合格)だった場合、次に見つかった細胞が「悪性かどうか」をクラス分類で判定します。国試でもこの分類の意味がよく問われます。
| クラス | 判定 | 状態 |
|---|---|---|
| Class I | 陰性 | 異型細胞を認めず、正常またはごく軽度の炎症性変化のみ。 |
| Class II | 良性異型 | 炎症性変化による細胞の変性や、がん細胞とは断定できない程度の軽度な異型細胞を認める。 |
| Class III | 疑陽性 | 悪性を完全に否定できない異型細胞を認める。がん細胞の疑いがあるが確定できない。 |
| Class IV | 陽性疑い | 悪性を強く疑わせる異型細胞を認める。ほぼがん細胞と判断される。 |
| Class V | 陽性 | 明らかに悪性細胞を認め、がん細胞と確定診断できる。 |
間違えやすいところ
- 肺胞マクロファージが見つかれば肺癌と診断できる → 誤り(あくまでも材料適性を評価する正常な細胞です。悪性細胞とは全く別物です。)
- この細胞は腫瘍細胞である → 誤り(異物をお掃除している正常なマクロファージです。)
- 扁平上皮細胞が多いほど良い検体である → 誤り(扁平上皮細胞は口の中の細胞なので、こればかりだと「ただの唾液」と判定されます。)
一言で覚えるなら
喀痰の細胞診はこの結びつきだけで解けます。
「ダストセル = 肺の奥の住人 = 材料適性」
ダストセルを見たら「この痰、本物だ」と判断できます。
さいの補足:細胞質の「アワアワ」の正体
マクロファージは肺に入った粉じんや細菌、壊れた細胞などを貪食するため、「肺のお掃除屋さん」とも呼ばれます。
マクロファージの細胞質が「泡沫状(アワアワ)」に見えるのは、彼らがゴミ(異物や死んだ細胞、脂質など)をパクパクと貪食し、細胞内にあるリソソームの酵素で消化している最中だからです。細胞質の中に「胃袋(食胞)」がたくさんできている状態だとイメージしてください。この泡沫状の細胞質は、マクロファージ(組織球)を見分ける際の最も重要なサインの一つです。
問48:完成した染色標本とパラフィンブロックの照合
【問題】
完成した染色標本とパラフィンブロックの照合で確認できるのはどれか。
- 1.切片の厚さ
- 2.染色の状態
- 3.切片の取り違え
- 4.切片の折れ曲がり
- 5.脱パラフィン不足
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正答:3
【問題の考え方】
この問題は病理検査における医療安全を問う問題です。
完成した染色標本(プレパラート)と、元になったパラフィンブロックを見比べる作業を「マクロ照合」といいます。
ここで確認する目的は、「標本がきれいに作れているか」ではなく、『この標本が本当にこの患者さんの組織なのか』を確認することです。
つまり、「スライドだけで分かる異常(品質)」と「ブロックと照合しないと分からない異常(安全)」を区別できれば解けます。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.誤り(切片の厚さ)
切片の厚さ(通常3~4 μm)は、顕微鏡で細胞の重なり具合やピントの合い方を見て判断します。パラフィンブロックと見比べても厚さは確認できません。 - 2.誤り(染色の状態)
HE染色が濃すぎる、薄すぎる、染めムラがあるなどは、完成したプレパラートを見るだけで判断できます。ブロックは未染色なので比較する意味はありません。 - 3.正しい(切片の取り違え)
これがマクロ照合最大の目的です。スライドガラスとブロックの番号が一致しているかだけでなく、組織の形、組織片の数、大きさや配置まで見比べることで、別患者の組織が混入していないか(コンタミネーション)を確認します。 - 4.誤り(切片の折れ曲がり)
組織のシワや折れ曲がりは、水伸ばしや薄切時に起こる技術的なトラブルです。プレパラートを見るだけで確認できます。 - 5.誤り(脱パラフィン不足)
脱パラフィンが不十分だと、染色不良、白っぽく見える、染めムラなどの原因になります。これも完成した標本だけで判断できます。
【比較】何を見れば分かる?
| 確認したいこと | 確認方法 |
|---|---|
| 取り違え・コンタミ | ブロックとの照合(マクロ照合) |
| 切片の厚さ | 顕微鏡(ミクロ観察) |
| 折れ曲がり・シワ | プレパラート(肉眼・顕微鏡) |
| 染色状態 | プレパラート(肉眼・顕微鏡) |
| 脱パラフィン不足 | プレパラート(白濁などを確認) |
間違えやすいポイント
学生がよく混同するのが、「品質管理」と「患者確認」です。
ブロックと照合する目的は、染色の出来や切片の厚さを確認するためではありません。患者の取り違えを防ぐためです。
覚えておきたいポイント
マクロ照合の目的は一つだけです。
「プレパラートとブロックを見比べて、組織の取り違えを防ぐ。」
品質ではなく医療安全のために行う作業だと覚えましょう。
さいの補足:コンタミネーションはどうして起こる?
ミクロトームで切った組織は、そのままスライドに貼るのではなく、40℃前後の伸展水槽に浮かべてシワを伸ばしてから回収します。
このとき、水槽内に前の患者さんの組織片が残っていると、それを一緒に拾ってしまうことがあります。これがコンタミネーション(異物混入)です。
そのため、完成した標本とパラフィンブロックを照合し、組織片の数・組織の形・配置が一致しているかを確認し、取り違えや混入がないことを最終確認します。
問49:肝前性黄疸の原因と分類
【問題】
肝前性黄疸の原因はどれか。
- 1.胆管癌
- 2.溶血性貧血
- 3.薬剤性肝障害
- 4.アルコール性肝障害
- 5.Dubin-Johnson症候群
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正答:2
【問題の考え方】
黄疸は「どこでビリルビンの流れが止まったか」を考えると整理しやすくなります。肝臓を「ビリルビンの加工工場」に例えると、工場へ届く前(肝前)、工場の中(肝性)、出荷後(肝後)のどこで異常が起きたかを判断する問題です。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.誤り(胆管癌)
胆管が癌で塞がれると、肝臓から出荷された後の胆汁(直接ビリルビン)が流れなくなり、血液中に逆流します。これは出荷後の道の渋滞なので「肝後性黄疸(閉塞性黄疸)」の原因です。 - 2.正しい(溶血性貧血)
赤血球が異常に破壊される(溶血)ことで、ヘモグロビンから大量の間接ビリルビンが作られます。肝臓の処理能力を超えてしまうため、血液中に間接ビリルビンが溜まります。これは工場に運ばれる前の材料が多すぎる状態なので、「肝前性黄疸」の典型的な原因です。 - 3.誤り(薬剤性肝障害)
薬の副作用で肝細胞そのものがダメージを受け、ビリルビンを加工・排泄する能力が落ちてしまいます。工場自体のトラブルなので「肝性黄疸(肝細胞性黄疸)」の原因です。 - 4.誤り(アルコール性肝障害)
お酒の飲み過ぎによって肝細胞が破壊され、ビリルビンの処理がうまくできなくなる状態です。これも工場自体のトラブルなので「肝性黄疸」に分類されます。 - 5.誤り(Dubin-Johnson症候群)
抱合(直接)ビリルビンまでは正常に作られますが、それを胆管へ捨てる「出口のドア(トランスポーター)」が生まれつき壊れているため、胆汁中へ排泄できません。そのため直接ビリルビン優位の黄疸になります。肝臓の中での排泄障害なので、これも「肝性黄疸」に分類されます。
【関連知識】黄疸の分類と上昇するビリルビン
「どこが悪いか」と「どのビリルビンが増えるか」をセットで覚えておきましょう。
| 種類 | イメージ | 主な原因疾患 | 上昇するビリルビン |
|---|---|---|---|
| 肝前性黄疸 (溶血性) |
材料の作りすぎ | 溶血性貧血 | 間接優位 |
| 肝性黄疸 (肝細胞性) |
工場自体の故障 | 急性・慢性肝炎、肝硬変、 薬剤性肝障害、D-J症候群など |
直接・間接ともに上昇 (疾患による) |
| 肝後性黄疸 (閉塞性) |
出荷後の道が渋滞 | 胆石症、胆管癌、膵頭部癌など | 直接優位 |
間違えやすいポイント
黄疸の原因とビリルビンの種類をすり替える引っかけに注意しましょう。
- 溶血性貧血では直接ビリルビンが上昇する → 誤り(肝臓で加工される前の「間接ビリルビン」が上昇します)
- 胆管癌は肝性黄疸である → 誤り(胆道が詰まるため、肝臓の後ろの問題である「肝後性黄疸」です)
- Dubin-Johnson症候群は肝後性黄疸である → 誤り(肝細胞の中の出口が壊れているため、「肝性黄疸」に分類されます)
- Dubin-Johnson症候群では間接ビリルビンが上昇する → 誤り(抱合はできているので「直接ビリルビン」が上昇します)
覚えておきたいポイント
黄疸は「前・中・後」で整理しましょう!
- ・前 = 溶血(間接↑)
- ・中 = 肝炎・薬剤・体質性(直接・間接↑)
- ・後 = 胆管癌・胆石(直接↑)
さいの補足:体質性黄疸の分類
生まれつきビリルビンの処理が苦手な「体質性黄疸」の分類も押さえておきましょう。
| 体質性黄疸 | 特徴 |
|---|---|
| Gilbert(ジルベール) | 間接ビリルビン上昇。加工(抱合)する酵素の働きが少し弱い。 |
| Crigler-Najjar (クリグラー・ナジャール) |
間接ビリルビン上昇。加工する酵素が全くない、または極めて少ない(重症)。 |
| Dubin-Johnson (デュビン・ジョンソン) |
直接ビリルビン上昇。加工した後の出口(トランスポーター)が壊れている。肝臓が黒色になる。 |
| Rotor(ローター) | 直接ビリルビン上昇。D-J症候群と似ているが、肝臓は黒くならない。 |
Dubin-Johnson症候群とRotor症候群はどちらも直接ビリルビン優位ですが、Dubin-Johnson症候群では肝臓が黒色化するのに対し、Rotor症候群では黒色化しません。
問50:PAS反応標本による臓器の鑑別
【問題】
PAS反応標本(別冊No. 9)を別に示す。この臓器はどれか。
- 1.肝 臓
- 2.食 道
- 3.腎 臓
- 4.大 脳
- 5.脾 臓
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正答:3
【問題の考え方】
組織の画像問題は、「その臓器にしかない特徴的な構造物」を見つけるゲームの様なものです。画像の中に「毛糸の玉」のような丸い構造物がいくつも見えるでしょうか?これが見えた瞬間に、ある臓器が確定します。
【画像所見の読解】
画像(別冊No.9)の構造を観察します。
- ・画面のあちこちに、毛細血管がウネウネと球状に集まった「糸球体(毛糸の玉のような構造)」が見えます。
- ・糸球体の周りには、少し隙間(ボウマン腔)を空けてカプセルのような袋(ボウマン囊)が包んでいます。この2つを合わせて「腎小体」と呼びます。
- ・腎小体の周囲には、管を輪切りにしたような「尿細管」がびっしりと並んでいます。
- ・PAS染色(過ヨウ素酸シッフ染色)により、糸球体の血管の壁(基底膜)や、尿細管の基底膜、近位尿細管の「刷子縁」が鮮やかな赤紫色(PAS陽性)に染まっています。
糸球体という特徴的な構造が見えることから、この臓器は「腎臓(の皮質)」であると断定できます。
【各選択肢の解説(他臓器との鑑別点)】
- 1.誤り(肝臓)
肝臓の組織像では、六角形の「肝小葉」という構造をとり、その真ん中に「中心静脈」があります。そこから放射状に「肝細胞索」が並び、網の目のように「類洞」が走る様子が観察されます。糸球体はありません。 - 2.誤り(食道)
食道は食べ物が通る管なので、摩擦に強い分厚い壁を持っています。表面には「重層扁平上皮」という層が重なった上皮が見られ、その下に粘膜固有層、粘膜筋板などが観察されます。 - 3.正しい(腎臓)
画像の通り、血液をろ過する腎小体(糸球体+ボウマン囊)と、原尿から栄養や水分を再吸収する尿細管が見られるため、腎臓です。 - 4.誤り(大脳)
大脳の皮質では、ピラミッド型をした大きな神経細胞(錐体細胞)や、神経を支える小さなグリア細胞(神経膠細胞)が観察され、全体として層構造(6層)を形成しています。 - 5.誤り(脾臓)
脾臓は血液のフィルターです。リンパ球が密集して丸く青っぽく見える「白脾髄」と、赤血球が豊富な「赤脾髄」に分かれている様子が観察できます。
【関連知識】PAS染色とは?
PAS染色(過ヨウ素酸シッフ染色)は、病理検査でHE染色と同じくらい頻繁に使われる非常に重要な特殊染色です。
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| 染めるもの | 多糖類(グリコーゲン)、糖タンパク質、糖脂質など |
| 陽性の色 | 赤紫色(マゼンタ) |
| 腎臓で染まる場所 | 糸球体基底膜、メサンギウム基質、尿細管基底膜、刷子縁 |
| 肝臓で染まる場所 | 肝細胞内のグリコーゲン(※ジアスターゼ消化で消失する) |
| その他よく染まるもの | 真菌(カビ)の細胞壁、中性ムチン、粘液など |
間違えやすいところ
- PAS染色はDNAを染める → 誤り(DNAやRNAを染めるのはHE染色の「ヘマトキシリン」です。PASは糖を染めます。)
- 糸球体があるのは肝臓である → 誤り(糸球体は血液をろ過して「おしっこ」を作る場所なので、腎臓にしかありません。)
一言で覚えるなら
組織を見分ける目印です。
「毛糸の玉(糸球体)が見えたら、絶対に腎臓」
さいの補足:なぜ腎臓でPAS染色をするのか?
病理検査で腎臓の組織(腎生検など)を見る際、HE染色だけでなく必ず「PAS染色」や「PAM染色」といった特殊染色を行います。その理由は、「基底膜のわずかな変化」を観察するためです。
例えば、糖尿病性腎症では糸球体の血管壁やメサンギウム領域に糖タンパク質(硝子様物質)が異常に沈着して分厚くなり、膜性腎症などの糸球体腎炎では基底膜が分厚くなったり免疫複合体が沈着したりします。こうした微細な構造変化は、全体が赤や青に染まるHE染色では分かりにくいため、糖タンパク質を赤紫色にハッキリ染め出す「PAS染色」が大活躍するのです。
問51:FISH法による乳癌HER2検査の模式図
【問題】
FISH法による乳癌HER2検査の模式図(別冊No. 10)を示す。
HER2とCEP17のシグナル比(HER2/CEP17)で最も近いのはどれか。
- 1.0.5
- 2.1.0
- 3.3.0
- 4.10.0
- 5.50.0
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正答:3
【問題の考え方】
一見すると意味不明な図に見えて戸惑うかもしれませんが、実は「黒丸と白丸の数を数えて割り算をするだけ」の簡単な問題です。ただし、なぜこんな数を数えているのか(検査の目的と判定基準)を知っておくと、他の問題にも応用が利きます。
【画像所見の読解と計算】
画像(別冊No.10)の右側にある凡例に従って、細胞(灰色の円)の中にあるシグナル(点)の数を数えます。
- ・HER2(黒丸 ●)の数:8個の細胞の合計を数えると「49個」あります。
- ・CEP17(白丸 ○)の数:8個の細胞の合計を数えると「16個」あります。
問題文で求められている「HER2/CEP17 のシグナル比」を計算します。
計算結果に最も近い選択肢は「3.0」となります。
【関連知識】FISH法とHER2検査の目的
この問題の背景にある臨床的な意義を整理しておきましょう。
| 項目 | 解説 |
|---|---|
| FISH法とは? | 蛍光色素を付けたDNAプローブを相補的な塩基配列に結合(ハイブリダイズ)させ、特定の遺伝子や染色体領域を観察する検査です。 |
| HER2遺伝子 | がん細胞の増殖に関わる遺伝子です。乳がんや胃がんの一部では、この遺伝子が増幅するとHER2タンパクが過剰発現し、細胞増殖シグナルが活性化されるため、がんの増殖能が高くなります。 |
| CEP17シグナル | 17番染色体セントロメア領域を認識するプローブです。HER2遺伝子は17番染色体に乗っているため、CEP17は17番染色体そのものの本数を反映する「基準シグナル」としてカウントします。 |
| 判定基準 | HER2のシグナル数 ÷ CEP17のシグナル数が「2.0以上」の場合を「HER2遺伝子増幅あり(陽性)」と判定します。 |
| 治療への応用 | 陽性と判定された患者さんには、HER2タンパクをピンポイントで狙い撃ちにする分子標的薬(トラスツズマブ:商品名ハーセプチンなど)が極めて高い効果を発揮します。 |
間違えやすいところ
- 白丸と黒丸の分母分子を逆にする → 誤り(あくまで「HER2」がどれくらい増えているかを見たいので、HER2が分子です)
- シグナル比1.0で陽性とする → 誤り(正常な細胞でも17番染色体(白丸)は2本、HER2遺伝子(黒丸)も2つあるため、正常な比率は1.0です。陽性となるのは2.0以上です)
- すべての乳がん患者にFISH法を行う → 誤り(コストと手間がかかるため、まずは免疫組織化学染色〈IHC法〉を行います。詳細は下記の「さいの補足」へ)
ポイント
乳癌のHER2検査の判定基準は、この数字だけ暗記しておきましょう。
「HER2/CEP17シグナル比が 2.0以上 で陽性」
本問は比率が「3.0」となるため、明らかにHER2遺伝子が増幅している「陽性」の所見であり、分子標的薬の適応となる患者さんであることが分かります。
さいの補足:IHC法とFISH法の使い分け
実際の病理検査室では、乳がんの組織が届いたらいきなりFISH法を行うわけではありません。FISH法は時間もコストもかかるため、まずは手軽な「免疫組織化学染色(IHC法)」を行って、細胞表面のHER2タンパクの量を調べます。IHCはタンパク質の発現量を調べる検査、FISHは遺伝子増幅の有無を調べる検査です。
- ・スコア 0、1+ = 陰性(ハーセプチン適応なし)
- ・スコア 3+ = 陽性(ハーセプチン適応あり)
- ・スコア 2+ = 境界型(どっちつかず)
この「IHCでスコア2+(境界型)」と判定された場合にのみ、白黒をハッキリさせるために遺伝子レベルで調べるFISH法が追加で実施されます。IHCが3+(陽性)と判定されればハーセプチン適応となるため、FISH法は通常不要です。
問52:子宮頸部細胞診の判定(SCC)
【問題】
子宮頸部細胞診のPapanicoloau染色標本の弱拡大写真(別冊No. 11A)と強拡大写真(別冊No. 11B)を別に示す。適切な判定はどれか。

- 1.NILM(陰性)
- 2.LSIL(軽度扁平上皮内病変)
- 3.HSIL(高度扁平上皮内病変)
- 4.SCC(扁平上皮癌)
- 5.Adenocarcinoma(腺癌)
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正答:4
【問題の考え方】
この問題は、画像から「異形成(HSIL)」と「浸潤癌(SCC)」を見分けられるかがポイントです。悪性細胞の顔つきから組織型を特定し、「ベセスダシステム(子宮頸部細胞診の報告様式)」の記号を選択します。画像ではまず細胞の「色」と「形」に注目してみましょう。
【画像所見の読解】
画像(別冊No.11A、11B)の細胞を観察します。
- ・核の異常(悪性のサイン):核が大きく(N/C比の増大)、真っ黒に染まり(クロマチン増量)、ゴツゴツといびつな形(核形不整)をしています。
- ・細胞質の色:ライトグリーンに染まる青緑色の細胞に混じって、鮮やかなオレンジ色(オレンジG好性)に染まる細胞が目立ちます。これは細胞が異常に「角化」しているサインです。
- ・細胞の形:丸や四角ではなく、尻尾が長く伸びたオタマジャクシ状(Tadpole cell)や、細長いヘビ状・線維状(Fiber cell)など、多様な形の細胞(細胞多形性)が見られます。
「強い核異型」「異常な角化(オレンジ色)」「オタマジャクシ状の形」という要素が揃っているため、これは角化型扁平上皮癌を強く疑う細胞像です。
【各選択肢の解説とベセスダシステム】
- 1.誤り(NILM)
NILM(ニルム)は「悪性所見なし(正常または炎症のみ)」を意味します。本画像のように真っ黒で大きないびつな核を持つ細胞は存在しません。 - 2.誤り(LSIL)
軽度の異形成(HPV感染など)を示します。核周明庭(コイロサイトーシス)などの所見が見られますが、本画像のような強烈な核異型や細胞の変形はありません。 - 3.誤り(HSIL)
中等度〜高度の異形成や上皮内癌(前がん病変)を示します。核異型は強いですが、細胞は小型のものが多く、本画像のように「オタマジャクシ状」に変形するほどの細胞多形性や異常角化は通常見られません。 - 4.正しい(SCC)
Squamous Cell Carcinomaの略で、浸潤した扁平上皮癌を指します。オレンジG好性の角化細胞に加え、オタマジャクシ状細胞や線維状細胞がみられる場合は、角化型SCCを強く疑います。 - 5.誤り(Adenocarcinoma)
腺癌を指します。腺癌の場合は、細胞がボールのように立体的な集塊を作ったり、花びらのようなロゼット配列を示したり、細胞質の中に粘液を持っていたりします。扁平上皮癌のようなオレンジ色の角化やオタマジャクシ状の変形はしません。
【関連知識】ベセスダシステムの略語まとめ
子宮頸部細胞診の報告様式(ベセスダシステム)の英語略称は国試で必須です。
| 略語 | 読み方 / 意味 | 主な状態 |
|---|---|---|
| NILM | ニルム / 陰性 | 正常、または炎症のみ(がん細胞なし) |
| LSIL | エルシル / 軽度扁平上皮内病変 | 軽度異形成(HPV感染など) |
| HSIL | エイチシル / 高度扁平上皮内病変 | 中等度〜高度異形成、上皮内癌(前がん病変) |
| SCC | エスシーシー / 扁平上皮癌 | 浸潤がん(扁平上皮由来) |
| Adenocarcinoma | アデノカルシノーマ / 腺癌 | 浸潤がん(円柱上皮・腺由来) |
間違えやすいところ(HSILとの鑑別)
「悪い細胞なのは分かるけれど、HSIL(高度異形成)かSCC(浸潤癌)かで迷う」という人が多いです。見分けるポイントは「細胞の形がどれだけ崩れているか(多形性)」です。
- HSILは悪性度は高いですが、まだ上皮の中にとどまっているため、細胞の形は比較的小型で丸っこいものが多い傾向にあります。
- 一方、SCC(浸潤癌)では、浸潤に伴って細胞の大小不同や形態異常(多形性)がより目立つようになります。そのため、オタマジャクシ状や線維状といった多様な形の細胞が出現します。
ポイント
子宮頸部細胞診の画像問題は、この結びつきで候補が絞れます。
(※必ずというわけではありませんので注意)
「オレンジG好性 + オタマジャクシ細胞 = 角化型SCC」
さいの補足:なぜオタマジャクシ型になるのか?
ケラチンの産生が進むと細胞質が細長く伸び、オタマジャクシ状や線維状に見える細胞が現れます。これらは角化型扁平上皮癌を示唆する特徴的な細胞像として知られています。
問53:自動固定包埋装置の標本作製工程
【問題】
自動固定包埋装置における標本作製工程にないのはどれか。
- 1.乾 燥
- 2.脱 脂
- 3.脱 水
- 4.脱アルコール
- 5.パラフィン浸透
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正答:1
【問題の考え方】
この問題は、病理組織をパラフィンブロックにするまでの「置き換えリレー」の流れを理解しているかがポイントです。「標本を乾燥させない」という病理検査の基本を押さえていれば解ける問題です。
【各選択肢の解説(病態・原理)】
- 1.正しい(ない工程:乾燥)
組織を空気中で乾燥させると、細胞がひどく収縮して形が崩れ、染色性も著しく低下します(乾燥アーチファクト)。乾燥は標本の品質を大きく損なうため、病理検査では避けるべき工程です。 - 2.誤り(ある工程:脱脂)
組織の中の脂肪分を溶かし出す工程です。脱脂作用は主にアルコールによる脱水工程で同時に行われます。乳腺や脂肪肝など脂肪が極端に多い組織では、プログラムに「アセトン」などを組み込んで積極的に脱脂工程を追加することがあります。 - 3.誤り(ある工程:脱水)
組織の中の「水分」を抜き取り、「アルコール」に置き換える必須の工程です。組織が急激に縮まないよう、低濃度のアルコールから高濃度のアルコールへ段階的に濃度を上げていきます。 - 4.誤り(ある工程:脱アルコール)
一般に「透徹(とうてつ)」と呼ばれる必須の工程です。アルコールとパラフィンは混ざらないため、両方と混ざり合う仲介役の「キシレン」などを用いて、組織内のアルコールを追い出します。 - 5.誤り(ある工程:パラフィン浸透)
キシレンが浸透した組織を、溶かした温かいパラフィン(約60℃)の中に入れ、組織の内部まで完全にパラフィンを行き渡らせる必須の最終工程です。
【関連知識】自動固定包埋装置(ティッシュプロセッサー)の流れ
「何を何に置き換えているか」を整理しておきましょう。
| 順番 | 工程名 | 主な使用薬液 | 何を何に置き換えるか |
|---|---|---|---|
| ① | 固定 | ホルマリン | 生体 → 固定状態 |
| ② | 脱水 (脱脂) |
エタノール | 水 → アルコール |
| ③ | 透徹 (脱アルコール) |
キシレン | アルコール → キシレン |
| ④ | パラフィン浸透 | パラフィン | キシレン → パラフィン |
間違えやすいところ
- 脱アルコールは行わない → 誤り(「透徹」の別名です。アルコールを抜かないとパラフィンが入りません)
- 自動固定包埋装置でブロックが完成する → 誤り(国家試験では「自動固定包埋装置」という名称が使われますが、装置が行うのは「パラフィン浸透」までです。型に流し込んでブロックを作る「包埋」作業は、別の機械である包埋センターを使って手作業で行うのが一般的です)
ポイント(置き換えリレー)
水・アルコール・キシレン・パラフィンは、それぞれ互いに混ざらない組み合わせがあります。そのため、一気に置き換えることはできず、少しずつバトンを渡すように薬液を交換していきます。
「水からパラフィンへ、組織を乾かさないように薬液を置き換えていくリレー」
途中で組織が空気に触れて「乾燥」してしまうことは、このリレーにおいて避けるべきトラブルだとイメージ!
さいの補足:なぜ乾燥がダメなのか?
組織が乾燥すると、細胞が収縮し、核や細胞質の形態が不鮮明になります。また染色ムラや組織のひび割れが生じ、病理医ががん細胞の顔つきを診断する際に支障をきたします。これを「乾燥アーチファクト」と呼びます。
問54:Grocott染色に用いる試薬と原理
【問題】
Grocott染色に用いるのはどれか。2つ選べ。
- 1.クロム酸
- 2.シュウ酸
- 3.過ヨウ素酸
- 4.アンモニア銀
- 5.メセナミン銀
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正答:1、5
【問題の考え方】
Grocott(グロコット)染色で使われる試薬を選ぶ問題です。銀染色にはいくつか種類がありますが、ポイントは、「Grocott染色」と「PAM染色」で使用する酸化剤の違いを整理できているかどうかです。ここを押さえておけば確実に解けます。
【各選択肢の解説(原理)】
- 1.正しい(クロム酸)
Grocott染色の「酸化剤」です。真菌の細胞壁にある多糖類を酸化し、後の工程で銀と反応するためのアルデヒド基を生成させます。 - 2.誤り(シュウ酸)
Grocott染色では使用しません。PTAH染色などの還元・漂白工程で用いられることがあります。 - 3.誤り(過ヨウ素酸)
多糖類を酸化してアルデヒド基を作る酸化剤ですが、Grocott染色ではなく「PAM染色(過ヨウ素酸メセナミン銀染色)」や「PAS染色」で使用します。国試では混同しやすいポイントです。 - 4.誤り(アンモニア銀)
細網線維を染める渡辺の渡銀法などで使用する銀液です。Grocott染色では使用しません。 - 5.正しい(メセナミン銀)
生成されたアルデヒド基と反応し、還元されて黒色に発色する「銀液」です。真菌を黒く染め出す主役の試薬です。ちなみにPAM染色でも同じメセナミン銀が使われます。
【関連知識】Grocott染色・PAM染色・PAS染色の違い
「何を酸化剤として使い、何を、何色に染めるのか」をセットで覚えておきましょう。
| 染色名 | 酸化剤 | 銀液・試薬 | 主な対象物 | 染まる色 |
|---|---|---|---|---|
| Grocott染色 | クロム酸 | メセナミン銀 | 真菌、ニューモシスチス | 黒 |
| PAM染色 | 過ヨウ素酸 | メセナミン銀 | 腎臓の糸球体基底膜など | 黒 |
| PAS染色(参考) | 過ヨウ素酸 | シッフ試薬 | 糖原、粘液、真菌など | 赤紫 |
間違えやすいところ
名前の似ている試薬や、染まるもののすり替えに注意しましょう。
- Grocott染色の酸化剤は過ヨウ素酸である → 誤り(過ヨウ素酸を使うのはPAM染色です)
- Grocott染色ではアンモニア銀を使用する → 誤り(渡辺の渡銀法のひっかけです。Grocottはメセナミン銀を使います)
- PAS染色とGrocott染色はどちらも真菌が黒く染まる → 誤り(どちらも真菌が染まるため混同しやすいですが、PASは赤紫色、Grocottは黒色に染まります)
ここだけ覚えておけば大丈夫
Grocott染色とPAM染色は、以下の3点をセットで整理すると応用しやすくなります。
- ・GrocottとPAMは「どちらもメセナミン銀」を使う。
- ・違うのは「酸化剤」だけ(Grocottはクロム酸、PAMは過ヨウ素酸)。
- ・Grocottは真菌、PAMは腎糸球体基底膜を黒く染める。
さいの補足:なぜ真菌にGrocott染色を使うのか?
真菌の細胞壁には多糖類が豊富に含まれているため、PAS染色でも赤紫色に染めることができます。しかし、PAS染色では周囲の組織(他の糖タンパク質など)も一緒に赤く染まってしまうため、小さな真菌を見逃してしまうことがあります。
一方、Grocott染色では背景をライトグリーンなどで緑色に薄く染め、真菌だけを真っ黒に染め出すことができるため、コントラストが非常に高く、見落としを防ぐスクリーニングに最適です。
ニューモシスチス肺炎やアスペルギルス症などでは、Grocott染色が診断に欠かせない特殊染色として広く用いられています。また、PAM染色は腎糸球体基底膜やメサンギウム基質などを黒く染め、腎生検において微小な病変を観察する際によく用いられます。
問55:病理検査室における化学物質と発がん性
【問題】
発がん性が指摘されているのはどれか。
- 1.キシレン
- 2.メタノール
- 3.パラフィン
- 4.ホルムアルデヒド
- 5.エチレンジアミン四酢酸(EDTA)
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正答:4
【問題の考え方】
病理検査室で日常的に扱う試薬の中で、発がん性が確認されているものを問う問題です。実際の病理検査ではホルマリンやキシレンを毎日のように使用するため、安全管理の知識としても重要です。
【各選択肢の解説(原理と毒性)】
- 1.誤り(キシレン)
組織処理における脱アルコール(透徹)工程で広く使用される有機溶媒です。発がん性については、国際がん研究機関(IARC)による分類では「グループ3(分類できない)」とされています。発がん性よりも、吸入による中枢神経症状などの有機溶剤中毒に注意が必要な薬品です。 - 2.誤り(メタノール)
溶解剤や燃料などに使用されるアルコールの一種です。発がん性についてはキシレン同様グループ3とされています。毒性としては、視神経障害(失明の危険)や中枢神経抑制が有名です。 - 3.誤り(パラフィン)
組織包埋に使用されるワックス(ロウ)です。通常の病理検査で使用されるパラフィンには発がん性は指摘されていません。 - 4.正しい(ホルムアルデヒド)
組織の固定液(10%中性緩衝ホルマリンなど)として広く使用されます。IARCはホルムアルデヒドをグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しており、特に鼻咽頭がんや鼻副鼻腔がん、白血病との関連が報告されています。日本では「特定化学物質障害予防規則(特化則)」における特定化学物質(第2類)に指定されています。 - 5.誤り(エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉)
脱灰剤やキレート剤として使用されます。発がん性は低いとされており、IARC分類の対象外です。
【関連知識①】IARCによる発がん性分類
IARC(国際がん研究機関)の分類は、「どれだけ危険か」ではなく、「発がん性を示す証拠がどれだけ確実か」で分類されています。
| グループ | 分類の定義 | 主な該当物質 |
|---|---|---|
| グループ1 | ヒトに対して発がん性がある(証拠が十分) | ホルムアルデヒド、アスベスト、ベンゼンなど |
| グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある | アクリルアミド、無機鉛化合物など |
| グループ2B | ヒトに対して発がん性があるかもしれない | クロロホルム、スチレンなど |
| グループ3 | ヒトに対する発がん性を分類できない(証拠不十分) | キシレン、トルエンなど |
【関連知識②】病理の2大薬品と関連法規
病理検査室で大量に消費される「ホルマリン」と「キシレン」は、それぞれ対象となる法律が異なります。ホルムアルデヒドを取り扱う作業場では、特定化学物質作業主任者の選任が必要です。
| 薬品名 | 主な毒性・リスク | 関連する法律(規則) |
|---|---|---|
| ホルムアルデヒド | 発がん性、粘膜刺激性、アレルギー | 特定化学物質障害予防規則 (特化則・第2類物質) |
| キシレン | 中枢神経抑制(麻酔作用)、皮膚炎 | 有機溶剤中毒予防規則 (有規則・第2種有機溶剤) |
間違えやすいところ
法律と薬品をすり替える引っかけ問題に注意しましょう。
- ホルマリンとホルムアルデヒドは別の物質である → 誤り(ホルマリンは約35〜37%のホルムアルデヒド水溶液です)
- キシレンは発がん性がある → 誤り(有機溶剤としての毒性が問題になります)
- キシレンは特化則の対象である → 誤り(キシレンやエタノールは「有規則」です)
- ホルムアルデヒドは有規則の対象である → 誤り(特化則の第2類物質です)
覚えておきたいポイント
国家試験では、この2つの組み合わせが頻繁に問われます。
- ・ホルマリン = 発がん性 = 特化則(第2類)
- ・キシレン = 中枢神経毒性 = 有規則(第2種)
どちらも「換気が必須(局所排気装置)」であることは共通していますが、対象となる法律が異なる点を国試ではよく問われます。
さいの補足:ホルムアルデヒドの厳しい管理濃度
ホルムアルデヒドは発がん性などの健康被害を防ぐため、作業環境中の管理濃度が「0.1 ppm」という極めて低い数値に設定されています。キシレンの管理濃度が50 ppmであることを考えると、いかにホルムアルデヒドの基準が厳しい(=微量でも有害である)かが分かります。この「0.1 ppm」という具体的な数字も公衆衛生や安全管理の問題で出題されることがあるため、押さえておきましょう。
数値を丸暗記するより、「ホルムアルデヒドはキシレンよりはるかに厳しく管理されている」とイメージしましょう。
問56:疾病の病因論(内因と外因)
【問題】
疾病の内因となるのはどれか。
- 1.遺 伝
- 2.温 度
- 3.感 染
- 4.紫外線
- 5.放射線
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正答:1
【問題の考え方】
病気の原因は、「体の中に原因があるか(内因)」「外から影響を受けるか(外因)」で分類します。この基本が分かっていれば難しくありません。
【各選択肢の解説(分類の根拠)】
- 1.正しい(遺伝)
個体が生まれつき持っているDNA(遺伝子情報)によるものです。外からの影響ではなく、自分自身の内部に存在する要因であるため、「内因」に分類されます。 - 2.誤り(温度)
高温による熱傷や低温による凍傷など、外部環境による影響です。 - 3.誤り(感染)
細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が体の外から侵入して引き起こされるものです。これは「生物学的因子」に分類されます。 - 4.誤り(紫外線)
太陽光などによる外部からの刺激で、DNA障害の原因になります。 - 5.誤り(放射線)
放射線被ばくによる組織障害を引き起こす外因です。
【関連知識】疾病の原因(病因)の分類まとめ
内因と外因の代表例を整理しておきましょう。
| 大分類 | 小分類 | 具体例 |
|---|---|---|
| 内因 (個体側) |
素因 | 遺伝、人種、体質 |
| 生理的要因 | 年齢、性別 | |
| 病態的要因 | 免疫状態、内分泌・代謝異常 | |
| 外因 (環境側) |
物理的因子 | 温度、放射線、紫外線、機械的力、気圧 |
| 化学的因子 | 毒物、薬物、化学物質、重金属 | |
| 生物学的因子 | 病原微生物(細菌・ウイルス)、寄生虫 | |
| 栄養障害 | 栄養素の欠乏・過剰(ビタミン欠乏など) |
国試で間違えやすいポイント
「感染」と「栄養障害」の取り扱いで迷う受験生が多いです。
- 感染症は内因によるものである → 誤り(体の中で増えますが、原因となるウイルスや細菌は「外から」やってくるため外因です。)
- 栄養障害は内因である → 誤り(食事という「外からの」摂取が不適切であることが原因となるため、外因に分類されます。)
ここだけ覚えておけば大丈夫
この問題は、「自分自身の問題(体質・生まれつき)」か「外部環境の問題(事故・感染)」かを判断できれば確実に得点できます。「生まれつき・体質によるもの」は内因、「外から受ける刺激」は外因、と整理しておけば十分です。
さいの補足:素因と誘因の違い
病気は内因だけ、あるいは外因だけで起こるとは限らず、両者が重なって発症することが少なくありません。このとき、病気になりやすい体質などの根本的な原因(内因)を「素因(そいん)」と呼びます。一方、病気を発症する直接的なきっかけとなる外からの出来事(外因)を「誘因(ゆういん)」と呼びます。
例えば、「アレルギー体質(素因:内因)」を持つ人が、「スギ花粉(誘因:外因)」を吸い込んだことで花粉症を発症する、というように、両者が組み合わさることで初めて病気が成立することが多いです。この2つの言葉のニュアンスも医療現場ではよく使われます。
問57:アミロイドの染色法と顕微鏡観察
【問題】
アミロイドの染色法はどれか。
- 1.Congo red染色
- 2.Alcian blue染色
- 3.Ziehl-Neelsen染色
- 4.Sudan black B染色
- 5.Masson trichrome染色
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正答:1
【問題の考え方】
アミロイドを染める代表的な特殊染色を問う問題です。国試では「Congo red染色」「偏光顕微鏡」「アップルグリーン」の3点セットが頻出なので、まとめて覚えておきましょう。
【各選択肢の解説(原理)】
- 1.正しい(Congo red染色)
アミロイドの検出に最も特異的かつ標準的に用いられる染色法です。通常光では橙赤色(オレンジ〜赤)に染まり、偏光顕微鏡では黄緑色複屈折(アップルグリーン・バイレフリンゼンス)を示します。この所見はアミロイド沈着の診断で重要です。 - 2.誤り(Alcian blue染色)
アルシアンブルー染色は、酸性粘液多糖類を青色に染色します。消化管の杯細胞や軟骨基質などの粘液成分の検出に用いられます。 - 3.誤り(Ziehl-Neelsen染色)
チール・ネルゼン染色は、結核菌などの抗酸菌の検出に用いられます。細胞壁にミコール酸(脂質)を豊富に含む抗酸菌が、脱色されずに赤く染まります。 - 4.誤り(Sudan black B染色)
ズダンブラックB染色は、中性脂肪やリン脂質などの脂質を黒色に染色します。脂肪組織のほか、急性骨髄性白血病(AML)の鑑別などにも用いられます。 - 5.誤り(Masson trichrome染色)
マッソントリクローム染色は、結合組織の線維成分を染め分ける染色法です。膠原線維(コラーゲン)を青色または緑色に、筋線維や細胞質・赤血球を赤色に染め分けます。
【関連知識】その他のアミロイド染色法
コンゴーレッド以外にもいくつかのアミロイド染色があります。「通常光」と「偏光・蛍光」での見え方の違いを整理しておきましょう。
| 染色法 | 通常光 | 偏光(または蛍光) |
|---|---|---|
| Congo red染色 | 橙赤色 | 偏光:黄緑色複屈折(アップルグリーン) |
| DFS染色 ダイロン染色 ※国試での出題頻度は低い |
橙赤色 | 偏光:黄緑色複屈折(アップルグリーン) |
| チオフラビンT(ThT)染色 | – | 蛍光:黄緑色蛍光 |
| トルイジンブルー染色 | メタクロマジー(異染性)により赤紫色 | – |
国試で間違えやすいポイント
「偏光顕微鏡」と「蛍光顕微鏡」のすり替えや、染色の見え方に注意しましょう。
- コンゴーレッド染色だけでアップルグリーンに見える → 誤り(偏光顕微鏡で観察して初めてアップルグリーンに見えます。)
- Congo red染色の観察には蛍光顕微鏡を用いる → 誤り(光の性質を利用した「偏光顕微鏡」です)
- チオフラビンT染色は偏光顕微鏡を用いる → 誤り(蛍光色素なので「蛍光顕微鏡」です)
- DFS染色は脂質を染める → 誤り(Congo redと同じアミロイド染色です)
ここだけ覚えておけば大丈夫
アミロイド染色は、この3点セットで出題されます。
↓
偏光顕微鏡
↓
アップルグリーン(黄緑色複屈折)
さいの補足:なぜ偏光で光るのか?(βシート構造)
アミロイドの正体は、特定のタンパク質が異常な形に折り畳まれて蓄積した「ゴミ」のようなものです。この異常な形を「β(ベータ)シート構造」と呼びます。紙をジグザグに折ったような規則正しい形をしています。
コンゴーレッドの色素は、このβシート構造の隙間に規則正しく入り込んで結合する性質があります。色素が同じ向きにピシッと並ぶため、光を通したときに方向によって見え方が変わる「複屈折」という現象が起き、アップルグリーンに見えるのです。だからアミロイドだけが特異的に染まり、診断に利用できるのです。
問58:病理解剖臓器の肉眼所見(マクロ画像)
【問題】
病理解剖時に摘出された臓器のホルマリン固定後の肉眼写真(別冊No. 12)を別に示す。臓器はどれか。
- 1.肺
- 2.肝 臓
- 3.腎 臓
- 4.膵 臓
- 5.脾 臓
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正答:1
【問題の考え方】
マクロ画像では、色よりも「形」と「特徴的な構造」に注目します。この問題では分葉構造が最大のヒントです。
【画像所見の読解】
画像(別冊No.12)を観察すると、以下の2つの大きな特徴に気づきます。
- ・分葉構造:臓器に深い切れ込み(葉間裂)が2本入っており、全体が3つのブロック(上葉・中葉・下葉)に分かれています。
- ・表面の模様:滑らかな胸膜の下に、黒色の斑点(細かい網目状〜点状の黒色沈着)が無数に広がっています。
分葉構造と炭粉沈着という2つの特徴から、右肺と判断できます。黒い斑点は、吸い込んだ大気中のチリやタバコの煙などが長年蓄積した「炭粉沈着」です。
【各選択肢の解説(他臓器との鑑別点)】
- 1.正しい(肺)
右肺は3葉、左肺は2葉に分かれています。炭粉沈着は多くの成人肺で認められる所見であり、肺を同定する非常に分かりやすい目印となります。 - 2.誤り(肝臓)
人体最大の実質臓器(約1,200g)で、暗赤褐色を呈します。表面は平滑で、全体として大きなドーム状(くさび形)をしています。肺のような明確な分葉(裂)や炭粉沈着は見られません。 - 3.誤り(腎臓)
特有の「そら豆型」をした一対の臓器(約130g)です。表面は滑らかで、画像のような分葉や黒色の沈着はありません。 - 4.誤り(膵臓)
胃の裏側にある細長い(オタマジャクシのような)形をした実質臓器です。表面は細かい小葉構造によってやや凹凸(顆粒状)がありますが、肺のような大きな裂はありません。 - 5.誤り(脾臓)
左上腹部にある握り拳大(約100g)の臓器です。暗赤色でやや扁平な長楕円形をしており、表面は平滑です。
【関連知識】左右の肺の違い
肺の解剖学的特徴は、右と左で異なる点がよく出題されます。
| 項目 | 右肺 | 左肺 |
|---|---|---|
| 葉の数 | 3葉(上葉・中葉・下葉) | 2葉(上葉・下葉) |
| 葉間裂の数 | 2本(水平裂・斜裂) | 1本(斜裂のみ) |
| その他の特徴 | – | 心切痕、舌区あり |
| 気管支の角度 | 太く、短く、垂直に近い | 細く、長く、水平に近い |
国試で間違えやすいポイント
解剖学の基礎知識を利用した引っかけに注意しましょう。
- 左肺は3葉である → 誤り(左側には心臓が収まるスペースが必要なため、2葉しかありません。)
- 誤嚥した異物は左肺に入りやすい → 誤り(右の気管支の方が太くてまっすぐ(垂直に近い)ため、異物は右肺に落ちやすくなります。)
この臓器のポイント
- ・切れ込み(分葉)がある
- ・黒い斑点(炭粉)がある
マクロ画像で「分葉」と「炭粉沈着」が見えたら「肺」を疑いましょう。
さいの補足:なぜ炭粉は表面に集まるのか?
気道から吸い込まれた細かな炭粉(ダスト)は、肺胞まで到達すると「肺胞マクロファージ(塵埃細胞)」に貪食(パクパク食べられる)されます。その後、炭粉を取り込んだマクロファージはリンパ流に乗って移動し、肺の表面(臓側胸膜の下)や、気管支の周囲にあるリンパ節などに集まって沈着します。そのため、肉眼で見ると肺の表面に黒い網目状の模様が浮かび上がって見えるのです。細胞診で登場するダストセル(肺胞マクロファージ)の知識が、マクロ病理の所見にも繋がっています。
病理組織細胞学(午前)の解説は以上です
お疲れ様でした。
今回の病理組織細胞学は、標本作製の流れや特殊染色の原理、細胞診・組織像の読み取りなど、国家試験で繰り返し出題される重要テーマが中心でした。暗記だけでは対応しにくい問題もありますが、「なぜその染色を使うのか」「なぜその所見が見えるのか」を理解しておくと、初見の問題でも落ち着いて考えられるようになります。
画像問題は、一つひとつの臓器や細胞の「目印」を覚えることが得点への近道です。糸球体なら腎臓、オレンジG好性のオタマジャクシ細胞なら扁平上皮癌、肺なら炭粉沈着と分葉構造というように、特徴とセットで整理しながら復習してみてください。
病理組織細胞学は覚えることが多い分野ですが、一つひとつの知識がつながると得点源になります。ぜひ過去問を繰り返し解きながら、自分の中で「なぜそうなるのか」を説明できるレベルまで理解を深めていきましょう。
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