過去問は厚労省ホームページより引用しております。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics_150873_139_140.html
不適問題が2問あります。回答を迷わせる問題はやめてほしいですね。
第70回病理組織細胞学AM45~58
45 組織の固定原理がメチレン架橋によるのはどれか。
- 酢 酸
- アセトン
- エタノール
- ピクリン酸
- ホルマリン
解説:ホルマリン=メチレン架橋を覚えておきましょう。原理は以下の通りです。
ホルムアルデヒドはタンパク質や核酸のアミノ基(-NH2)と反応してヒドロキシルメチル基(-CH2OH)が生じる。
これがさらに他の蛋白質中のアミノ基(-NH2)と反応して部分的に可逆的なメチレン架橋(-CH2-)を形成する。
単に知識を問うている問題なので、落とさないように覚えておきましょう。
答え:5
46 リンパ節の術中迅速組織標本の弱拡大写真(別冊No. 8A)と強拡大写真(別冊No. 8B)を別に示す。標本にみられる不良の原因はどれか。(不適問題)
- 切り出し
- 凍 結
- 薄 切
- 固 定
- 染 色
解説:写真を見てみると切片にチャターのような細かいひび割れを認める。
★チャター(チャタリング)の原因
- 薄切厚が薄い
- 薄切速度が速い
- ブロック温度が低い
厚労省は、チャターの原因は「薄切にある」というのを期待していたのだと思いますが、厳密に考えると「凍結時」の温度にも影響を受けます。
したがって、薄切と凍結が正しいように考えることができ、不適問題となりそうです。
※厚生労働省の解答:3
答え:2と3(厚労省は3)
47 ヘマトキシリンの分別に用いるのはどれか。
- アンモニア水
- 炭酸リチウム
- 塩酸アルコール
- カリウムミョウバン
- ヨウ素酸ナトリウム
解説:ヘマトキシリンの分別は分別が必要な「退行性ヘマトキシリン(カラッチ、ギル、ハリス、デラフィールド)」で過染した組織成分を脱色し、適度な核の染色性のみを残すことをいう。
※マイヤー・ヘマトキシリン液では、核を選択的に染め分別は不要。
用いる分別材は「塩酸アルコール」などの塩酸溶液
(推奨は0.5%塩酸、70%アルコール混合溶液)で、染色カゴなどに浸し規定時間(回数)浸漬させる。
答え:3
48 弾性線維と膠原線維を染め分けるのはどれか。
- PAM染色
- 渡辺の鍍銀法
- Victoria blue染色
- Masson trichrome染色
- elastica van Gieson染色
解説:選択肢の染色法が何を染めるものか、正しいものに直します。
- PAM 染色は、腎糸球体基底膜やメサンギウム基質の変化をとらえることができる
- 渡辺の鍍銀法は、組織構築の変化や、炎症性病変における線維化の程度の確認などに利用される
- Victoria blue 染色は弾性線維を染めるのに用いられる
- Masson trichrome 染色は線維化や糸球体腎炎における免疫蛋白複合体沈着の観察に用いられる
- elastica van Gieson 染色はレゾルシン・フクシン液を用い、血管病変における弾性線維の変化を観察することができる
さらに膠原線維や筋線維を染めるワンギーソン液を利用することにより、悪性腫瘍の脈管侵襲を評価することができる
答え:5
49 食道のPAS染色標本(別冊No. 9A)とα-アミラーゼ消化後のPAS染色標本(別冊No. 9B)を別に示す。消化試験で同定されるのはどれか。
- 線維素
- 中性粘液
- アミロイド
- グリコーゲン
- リポフスチン
解説:単純多糖類(グリコーゲン)の染色法として、ヨウ素反応やシッフ反応、
ベストカルミン染色などの方法が利用されてきた。
その中でも糖質を過ヨウ素酸で酸化させて生じたアルデヒド基をシッフ試薬で呈色する
PAS染色が現在では一般的な糖質の証明方法として活用されている
いずれの方法においてもグリコーゲンのみならず粘液など他の多糖類も同時に染めてしまうので、陽性物質がグリコーゲンであることを証明するためにα-アミラーゼ負荷試験を行う。
写真では、粘膜下にある食道腺と拡大像で示されている重層扁平上皮の角化層に陽性像を確認することができる。(多糖類が赤紫色に染色されて陽性となる)
α-アミラーゼ消化後のPAS染色標本を見てみると、食道腺の陽性像は中性粘液のため保持されているが、重層扁平上皮の角化層に存在するグリコーゲンが、α-アミラーゼにより消化されているため陰性化している
つまり、この消化試験では「グリコーゲン」を同定することができる。
答え:4
50 腹水のPapanicolaou染色標本(別冊No. 10)を別に示す。矢印で示す細胞はどれか。
- 組織球
- 中皮細胞
- 印環細胞癌
- 扁平上皮癌
- 悪性リンパ腫
解説:矢印の細胞は、核偏在傾向で細胞質に粘液様物質をみる大小不同さまざまな形態の細胞であり、印環細胞癌を疑う異型細胞を考える。
印環細胞癌は、胃に多く発生するとされているが、食道、大腸、乳腺、膵臓など他の臓器にも発生する可能性がある。
★印環細胞癌の形態的特徴
- 核の飛び出し像
- 核異型(核偏在、大小不同など)
- 細胞質に多量の粘液像
答え:3
51 腎近位尿細管の刷子縁に一致する電子顕微鏡像はどれか。
- 線 毛
- 微絨毛
- ゴルジ装置
- 粗面小胞体
- ミトコンドリア
解説:刷子縁(さっしえん:brush border)とは小腸の吸収上皮細胞や腎臓の近位尿細管細胞の上部に存在する長さや太さが不揃いの微絨毛が密に形成されている部分を指す。
極めて多数の微絨毛によって細胞の自由面の表面積(吸収面)を拡張し、吸収作用を向上させる。
答え:2
52 神経組織で正しいのはどれか。
- 稀突起膠細胞をニューロンと呼ぶ。
- 小膠細胞は末梢神経系に存在する。
- 星状膠細胞は末梢神経系に存在する。
- 樹状突起は受容した興奮を神経細胞体に伝える。
- ランヴィエ〈Ranvier〉の絞輪はシナプス間隙に存在する。
解説:神経系の問題ですが、内容も難しく複雑です。選択肢を正しい形に直して、そこから理解を広げていきましょう。
- 神経組織の中で短い突起を有するグリア細胞を稀突起膠細胞(きとっきこうさいぼう)と呼ぶ
- 小膠細胞(しょうこうさいぼう:Microglia)は、神経細胞の修復や貪食による脳内の不要物質の除去などの役割を果たしていて、脳脊髄中に存在するグリア細胞のひとつ。中枢神経系に存在する。
- 星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう:macroglia)は脳脊髄中存在し、血管とニューロンの結びつけなど脳内の構造の支持や環境維持、神経伝達物質の取り込みや血液脳関門の形成などの重要な役割を果たしている
- 神経細胞は神経細胞体とそこから出る2種類の突起からできている。
一方の突起は興奮を受容し神経細胞体に伝えるもので樹状突起といい、もう一方は細胞体に起こった興奮を遠くへ送るもので軸索という。 - 有髄神経軸索はミエリン鞘(髄鞘)で囲まれ、1~2 mmおきに周期的に髄鞘で囲まれていない間隙をランヴィエ(Ranvier)の絞輪という
答え:4
53 腹水の原因で誤っているのはどれか。
- 腹膜炎
- 高蛋白血症
- 門脈圧亢進症
- リンパ管閉塞
- うっ血性心不全
解説:腹水が貯まる原因は様々なものがる。
★腹水が貯留する原因
- 癌性腹膜炎(腹部の炎症)
- 肝硬変(門脈圧亢進症や低蛋白血症)
- リンパ管閉塞
- うっ血性心不全(心不全)
- 腎不全
腹水には大きく分けて、「腹部の炎症が原因のもの」と、「肝硬変や腎不全などの病気により血管内の浸透圧の低下が起こる」の2つが原因となる。
選択肢の高蛋白血症は直接関係がない。
答え:2
54 細胞死で正しいのはどれか。
- 壊疽は可逆的である。
- 乾酪壊死は脳梗塞で起こる。
- 融解壊死は心筋梗塞で起こる。
- 凝固壊死は脂質に富んだ臓器に多い。
- アポトーシスは発生過程で生理的にみられる。
解説:細胞死についてです。選択肢を正しい形に直してまとめます。過去にはアポトーシスとネクローシスの特徴を聞いてくる問題も出題されています。
本問題は、細胞死(アポトーシス、壊疽、陥落壊死、融解壊死、凝固壊死)の鑑別です。
- 壊疽とは壊死した組織が乾燥または感染を受け、腐敗していく不可逆的変化で、治ることはない。
- 結核滲出性病変などにみられる乾酪壊死は、壊死した細胞が白く固まり、
チーズ(乾酪)を呈する壊死 - 壊死を起こした細胞の自己融解が高度に生じた場合を融解壊死といい、
蛋白質が少なく脂肪組織が多い脳などにみられる(脳梗塞など)
- 凝固壊死は、蛋白質の高度な変性により、梗塞した部分が硬くなる壊死で、高度な虚血性梗塞の際などにみられる(心筋梗塞など)
- アポトーシスは発生過程で生理的にみられる
答え:5
55 石灰沈着を伴いやすい腫瘍はどれか。
- 脂肪腫
- 髄膜腫
- 肝細胞癌
- 子宮頸癌
- 悪性黒色腫
解説:石灰沈着とは何か。何が原因なのか。そしてどこに発生しやすいのか。これらを簡単にまとめます。
- 石灰沈着とは、軟部組織にカルシウム塩が病的に沈着することをいう。
- 原因としては「加齢・異栄養性・高カルシウム血症・結石症・腫瘍など」がある
- 石灰沈着を伴いやすい腫瘍
⇒卵巣腺癌、甲状腺乳頭癌、乳腺腫瘍や、
脳腫瘍(松果体腫瘍、頭蓋咽頭腫、髄膜腫)など
覚えるしかありませんので、整理した内容を繰り返し反復しましょう。
答え:2
56 化膿性炎で多数認められる細胞はどれか。
- 形質細胞
- 好酸球
- 好中球
- 組織球
- リンパ球
解説:化膿性炎症とは滲出物に多量の好中球を含む炎症のこと。
化膿性炎症(ブドウ球菌やレンサ球菌)では好中球が著しく増加する。
その他の選択肢を見てみると
- 形質細胞は多発性骨髄腫で末梢血に出現する
- 好酸球はアレルギーで増加する
- 組織球は別名マクロファージ(大食細胞)と呼ばれ、感染でも応答するが、好中球ほど多量に見られない
- リンパ球は主にウイルス感染で増加する
答え:3
57 内分泌機能を有するのはどれか。
- 肺
- 子 宮
- 膵 臓
- 脾 臓
- 膀 胱
解説:内分泌機能とは、すなわち「ホルモンを分泌する」ということです。
★ホルモンを分泌する器官
- 視床下部:下垂体前葉に作用する放出ホルモン、放出抑制ホルモン
- 下垂体(前葉):副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、成長ホルモン(GH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、乳汁分泌ホルモン(PRL)、性腺刺激ホルモン(LH,、FSH)
- 下垂体(後葉):抗利尿ホルモン(ADH)
- 松果体:メラトニン
- 甲状腺: T4(サイロキシン)T3、(トリヨードサイロニン)、カルシトニン
- 副甲状腺:副甲状腺ホルモン(PTH)
- 膵臓:グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン
- 副腎(皮質):コルチゾール、アルドステロン
- 副腎(髄質):カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)
- 卵巣:エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)
- 精巣:アンドロゲン(テストステロンが大部分)、抗ミュラー管ホルモン
など
大変ですが、技師として働く上でも重要なのでしっかり覚えておきましょう。
答え:3
58 FISH法で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 標本は永久標本となる。
- 遺伝子増幅の検出に用いる。
- 染色体転座の検出に用いる。
- 観察には偏光顕微鏡を用いる。
- 核はフルオレセインイソチオシアネート〈FITC〉で染色する。
解説:FISH法について、選択肢を用いてまとめてみます。
★Fluorescence in situ hybridization法(FISH法)
- FISH法とは、標識に蛍光色素を用いた in situ hybridization(ISH)法のこと。
- 蛍光物質をつけたプローブを標的遺伝子と結合させ、蛍光顕微鏡下で可視化する手法のこと。
※プローブには4種類ほどあり、目的に応じて使い分けられる。 - 核はDAPI(4′, 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)によって青色蛍光色に対比染色する。
核の蛍光は減衰するため永久標本として保存することができない。
- FISH法は乳がんや胃がんで HER2/neu (がん遺伝子)の遺伝子増幅の検出に用いられる。
- 骨・軟部腫瘍または肺がんでは染色体転座の検出に用いられる。
FISH法は「蛍光法色素を用いるので、蛍光顕微鏡を用いる。遺伝子増幅の検出や染色体転座の検出に使用される」ということを覚えておきましょう。
答え:2と3