過去問は厚労省ホームページより引用しております。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics_150873_139_140.html
国家試験の過去問解説のまとめページです
第70回病理組織細胞学PM45~58
45 子宮体癌で正しいのはどれか。
- 扁平上皮癌が多い。
- 好発年齢は30歳代である。
- 我が国の患者数は減少傾向にある。
- エストロゲンの長期投与がリスクとなる。
- ヒトパピローマウイルス感染に関係する。
解説:子宮体癌について、選択肢を含めてまとめました。
★子宮体癌の特徴
- 腺癌が多い
- 子宮内膜に発生する
- 閉経後の50~60代に多い
- 日本の患者数は増加傾向にある(職の欧米化など)
- 子宮頸がんと異なり、HPV(ヒトパピローマウイルス)との因果関係はない
- 生理不順などにより、エストロゲン(卵胞ホルモン)を長期投与することで、発がんのリスクとされている
子宮頸がんとの鑑別ができれば大丈夫そうです。ここでの鑑別ポイントは以下の通り。
- 子宮頸がんは扁平上皮癌が多い
- HPVと因果関係がある
- 30代の若年層に多い
答え:4
46 自然尿検体のPapanicolaou染色標本の弱拡大写真(別冊No. 9A)と強拡大写真(別冊No. 9B)を別に示す。考えられるのはどれか。
- 円柱上皮細胞
- 尿路上皮細胞
- デコイ細胞
- 尿路上皮癌細胞
- リンパ腫細胞
解説:異型細胞の鑑別のポイントは、核腫大やクロマチンの増量、N/C比などを見るとわかりやすいです。そして、尿検体においては背景も重要であり、今回の画像では多数の赤血球が観察されます。
統計的な話にもなるのですが、血尿であり、尿中に出現する異型細胞の多くは「尿路上皮由来」のものが圧倒的に多く、尿沈渣などで見つかるのはほとんどがそれです。(何かの文献で見ました)
では、今回の写真を見ていきます。出血性背景(赤血球)に核腫大によりN/C比が高く、クロマチンの増量を伴う異型細胞が多数出現しています。
選択肢から消去法で考えていくと、以下の通りになります。
- 円柱上皮細胞 ⇒ N/C比が低く、核偏在の円柱状の細胞質を持つ。そもそも異型細胞ではないので違う。
- 尿路上皮細胞 ⇒ 異型細胞ではないので違う。
- デコイ細胞 ⇒ 大きな均一な好塩基性の封入体の核を持つ尿中脱落細胞で、悪性細胞と紛らわしい良性細胞という意味でdecoy cell(おとり細胞)と呼ばれる。
※写真とかなり似ていますので、唯一の要鑑別選択肢かもしれません - 尿路上皮癌細胞 ⇒ N/C比が高く、核腫大、核クロマチンの増量もあり、最も疑うことができる。
- リンパ腫細胞 ⇒ 非上皮性細胞であり、鑑別にあがらない。
答え:4
47 成人男性の剖検時の臓器重量で正常範囲内なのはどれか。
- 脳 700g
- 甲状腺 100g
- 心 臓 300g
- 肝 臓 500g
- 脾 臓 400g
解説:臓器重量を以下にまとめました。
- 脳の重量:約1300g(内分泌臓器として最大)
- 甲状腺:約20g
- 心臓:約300g
- 肝臓:約1200g
- 脾臓:約100g
- 腎臓:約130g(片方)
- 肺:約400g(左)、約450g(右)
実際に手に取ることができれば何となくわかるのですが、臓器なので通常は無理です。
大きさで肝臓が重そうなのはわかります。脳は最大の重さでもあるので覚えておきましょう。
イメージしやすいように身近なもので例えると、心臓の300gは「リンゴ」と同じ程度です。
100gはニンジンやトマトの半分程度です。脾臓や腎臓の重さはそれらに近いということを覚えておけばOKと思います。
答え:3
48 中和処理が必要な脱灰液はどれか。2つ選べ。
- エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉
- 塩 酸
- ギ 酸
- 硝 酸
- トリクロロ酢酸
解説:脱灰液の種類を下にまとめます。
★脱灰液の種類
⇒脱灰とは骨またはその他の石灰化した組織からミネラル分を除去する方法
- 無機酸脱灰液:塩酸、硝酸
- 有機酸脱灰液:ギ酸、トリクロロ酢酸
- 中性脱灰液:EDTA液
- 迅速脱灰液:プランク・リクロ液(塩酸、ギ酸、塩化アルミニウム混合液)
無機酸である塩酸、硝酸や迅速脱灰液であるプランク・リクロ(Plank-Rychlo)液などの強酸を含む脱灰液で脱灰処理した場合、組織の膨化や染色性の影響を防ぐために中和処理が必要となる。
※中和処理手順
- 中和液(5%硫酸ナトリウム、5%硫酸リチウム、5%ミョウバン)に12~24時間浸漬し、その後十分に水洗し70%アルコールに浸漬する。
答え:2と4
49 Nissl小体が染まる色素はどれか。
- アニリン青
- クレシル紫
- クリスタル紫
- アゾカルミンG
- ルクソール・ファスト青
解説:Nissl小体(ニッスル小体)とは神経細胞の原形質中にある好塩基性の顆粒体で、粗面小胞体の集まりのこと。虎斑物質とも言われる。
★Nissl小体の染色法
クレシル紫を用いた染色法を用いて証明する。
- Nissl染色
⇒核およびニッスル小体(粗面小胞体)をクレシル紫で青紫色に染める - Klüver-Barrera染色(クリューバー・バレラ染色)に用いられる
他の選択肢を見てみると、
- アニリン青
⇒マッソントリクローム染色(Masson trichrome)やアザン染色(azan)に用いられ、膠原繊維や細網繊維を青色に染める。 - クリスタル紫
⇒ホルツァー染色(Holzer)に用いられ、神経膠繊維を紫色に染める。 - アゾカルミンG
⇒アザン染色に用いられ、核、細胞質、筋繊維、繊維素などを赤色に染める。 - ルクソール・ファスト青
⇒クリューバー・バレラ染色(Klüver-Barrera)で用いられ、髄鞘を青色に染める。
答え:2
50 最も感度が高い免疫組織化学染色法はどれか。
- 直接法
- 間接法
- ポリマー法
- ABC法〈アビジン・ビオチン・酵素複合体法〉
- PAP法〈ペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法〉
解説:免疫組織化学染色法には選択肢のように様々な種類があります。それらの染色法を感度順に示します。
★免疫組織化学染色(感度順)
- ポリマー法>ABC法>PAP法>間接法>直接法
上記染色法について簡単に説明します。
- ポリマー法
二次抗体を結合させた酵素標識ポリマーを用いた免疫染色法で、標識の数が多いほど感度も上がる。 - ABC法(アビジン・ビオチンシステム)
アビジンとビオチンの間に形成される強固で特異的な親和性を利用した方法。 - PAP法
一次抗体に続いて抗ペルオキシダーゼとペルオキシダーゼの複合体を反応させる方法。 - 間接法
一次抗体に二次抗体を反応させる方法。 - 直接法
目的の抗原に標識物質を直接標識した特異抗体を反応させる方法。蛍光抗体法でしばしば用いられている。
ポリマー法が最も感度が高く、汎用的に使われている。
答え:3
51 染色法と病原体の組合せで正しいのはどれか。
- PAS反応 アスペルギルス
- DOPA反応 B型肝炎ウイルス(HBs抗原)
- Kossa反応 抗酸菌
- Berlin blue染色 クリプトコッカス
- mucicarmine染色 ヘリコバクター・ピロリ
解説:染色法と病原体についても頻出です。選択肢をそれぞれまとめていきます。
- PAS染色
⇒真菌、グリコーゲン、糖蛋白、糖脂質、細網繊維、刷子縁、基底膜、甲状腺コロイド、軟骨基質、リポフスチン、アミロイド、赤痢アメーバなど、多くのものが赤紫色となる - DOPA反応
⇒メラニン前駆体 - Kossa反応
⇒組織内に沈着したカルシウムを硝酸銀を用いて証明する方法で、茶褐色~黒色に染める - Berlin blue染色
⇒3価の鉄イオンを青色に染色する。ヘモジデリンを検出できる - mucicarmine染色(ムチカルミン)
⇒上皮性粘液の染色に用いる - orcein染色(オルセイン染色)
⇒HBs抗原、弾性繊維の染色 - Ziel-Neelsen染色
⇒抗酸菌の染色でローダミンB・オーラミンO重染色を用いる。 - Giemsa(ギムザ)染色やHE染色、免疫組織化学染色など
⇒ヘリコバクター・ピロリ
選択肢はPAS反応となっているが、PAS染色と同義であり、アスペルギルスを含む真菌を赤紫色に染める。
答え:1
52 細胞診検体で抗凝固剤を添加するのはどれか。
- 膵 液
- 髄 液
- 胆 汁
- 体腔液
- 十二指腸液
解説:細胞診検体の採取後の取り扱いについてです。
- 膵液、胆汁、胃液など
⇒基本は直ちに冷蔵保存
可能であれば遠心からバッフィーコートの採取⇒引きガラス⇒固定(湿固定など)の処理を行う - 髄液
⇒蛋白質含有量が少なく細胞が壊れやすい。
低速遠心(700~1000回転で5~10分)で集細胞を行う - 体腔液(腹水、胸水など)
⇒ヘパリン(EDTA、二重シュウ酸塩でもOK)などの抗凝固剤入りの採血管を用いて保存する
こちらも可能であれば、直ちに固定操作を行う
関節液などの粘性が高いものにはヘパリンなどの抗凝固剤を用いて処理を行うイメージがありますが、体腔液は抗凝固剤を用いて処理した方が「万全」といったお話です。
「必須」というわけではないところもポイントかと思います。
答え:4
53 キシレンの性質で誤っているのはどれか。
- 引火性
- 水溶性
- 生殖毒性
- 皮膚刺激性
- 呼吸器有毒性
解説:毒物及び劇物取締法における、医薬用外劇物に指定されている「キシレン」についての出題です。
★キシレンの注意点(性質)
- 引火性がある
- 疎水性で、水に混ぜると白濁する
⇒有機溶媒に可溶(エタノール、アセトンなど) - 生殖毒性あり
- 皮膚刺激性あり
- 呼吸器有毒性あり
- 有機溶剤中毒予防規則でも第2種(管理濃度は50ppm)
- 化学物質排出移動量届け出制度第一種
⇒下水廃液もダメ
キシレンは水溶性ではなく、疎水性です。
答え:2
54 H-E染色標本(別冊No. 10)を別に示す。この臓器はどれか。
- 胃
- 食 道
- 大 腸
- 肺
- 膀 胱
解説:まず写真の臓器の答えからいうと「胃のH-E染色像」です。
なぜ、そのように断定できるかを鑑別点を深ぼっていきます。
★胃の粘膜組織の特徴
- 胃の粘膜は、胃小窩と胃底腺(頸部、体部、底部)が存在する
- 胃底腺の頸部には「頸部粘液細胞(副細胞)」がある
- 体部と底部にはペプシノゲンを分泌し、好塩基性に染まる「主細胞」と、塩酸を分泌すし、好酸性に染まる「壁細胞」がある
- 体部には壁細胞が多く、底部には主細胞が多い
僕は病理はあまり詳しくないのですが、「好酸性に染まっている壁細胞」と「好塩基性に染まっている主細胞」が目立つので、それで判断しました。
他の選択肢を組織学的にまとめると以下の通りになります。
- 食道
⇒重曹扁平上皮 - 大腸
⇒円柱上皮(杯細胞あり)
小腸はパネート細胞あり - 肺胞膜
⇒単層扁平上皮 - 膀胱
⇒尿路上皮
胃の他に「食道、小腸、大腸、十二指腸」などの消化管のHE染色画像は、もう覚えてしまった方が楽かもしれません。
答え:1
55 病理解剖で正しいのはどれか。
- 手術室で行う。
- 疾患の治療効果を判定する。
- 遺族の承諾を得る必要はない。
- 医師であれば誰でも行うことができる。
- 犯罪との関係が疑われる死体を対象とする。
解説:病理解剖の取り決めについて
- 病理解剖は大学内、あるいは病院内に設けられた解剖室において実施される
- 病理解剖の目的は「亡くなった人の死因、病気の本態、疾患の治療効果の判定がある
- 病理解剖は医療行為の一端で、臨床医の依頼に基づき死亡した患者の遺族の承諾を得た上で行われる
- 病理解剖の学識技能を有する医師、歯科医師が解剖を行う。
また、病理解剖を実施しようとする者は、解剖を行う地の保健所長の許可が必要となる。ただし、厚生労働大臣から死体解剖資格認定を得た者が解剖する場合は不要となる。 - 犯罪との関係が疑われる死体を対象とする解剖は司法解剖といい、刑事訴訟法に基づいて行われる(病理解剖ではない)
答え:
56 うっ血と関係ないのはどれか。
- 偽 膜
- 心臓病細胞
- チアノーゼ
- にくずく肝
- ガムナ・ガンディ〈Gamna-Gandy〉結節
解説:うっ血とは、静脈系を中心に血液が多くなることをいいます。選択肢の「偽膜」だけはうっ血とは関係ありませんが、それ以外はうっ血なので簡単に見ていきます。
- 偽膜とは組織学的には壊死物質が塊状に粘膜上に堆積したもので、
「フィブリン、粘液、好中球、および上皮残渣」で構成されるもの。
うっ血とは関係ありません。
- 心臓病細胞
⇒心不全由来の肺うっ血が原因
別名、肺胞マクロファージともいい、細胞質内に多量のヘモジデリンを含有している - チアノーゼ
⇒うっ血が原因の一つ
皮膚、口唇、四肢末梢に見られる、暗紫色様変化を示す - にくずく肝
⇒心不全由来の肝うっ血が原因
肝臓は、慢性的なうっ血によって、小葉中心部が暗赤色、辺縁部が黄色化し暗赤色と黄色が入り混じった状態になる - ガムナ・ガンディ〈Gamna-Gandy〉結節
⇒脾臓の慢性うっ血が原因
Gamna-Gandy結節は、肝硬変や特発性門脈圧亢進症などの門脈圧亢進をきたす疾患でみられる
うっ血にもその生じる箇所によって、起こる疾患は様々です。この設問においては、選択肢の意義を知っていれば比較的簡単に解くことができるようにも思えます。
答え:1
57 下肢静脈血栓が原因で塞栓症が起こる動脈はどれか。
- 下行大動脈
- 腎動脈
- 前大脳動脈
- 肺動脈
- 腹腔動脈
解説:エコノミークラス症候群のことです。
★エコノミークラス症候群とは
有名なのは飛行機など、狭い空間にて長時間同姿勢を保ち、筋肉のポンプを使用しない状態が続くことで、静脈血の流れが不良となり、静脈血栓塞栓症に陥る。
下肢静脈で作られた塞栓は、体動により剥がれてしまい、そのまま血流によって右心房、右心室を経て肺動脈へ行き、塞栓を引き起こしてしまう。
下肢静脈血栓は、肺動脈へ流れていくことを知っておけば「肺塞栓症」になるというところまで問題を深読みすることもできます。
深部静脈血栓症(DVT)の検査(エコー)にて、血栓を観察した場合、肺塞栓リスクを考慮し直ちに医師に報告し、適切な対応をとることが重要です。
答え:4
58 免疫組織化学染色で正しいのはどれか。
- ホルマリン固定パラフィン包埋切片は使用できない。
- 内因性ペルオキシダーゼ活性の阻害に過酸化水素加メタノールを用いる。
- 一次抗体反応後は洗浄して十分に乾燥させる。
- 二次抗体は一次抗体と同じ動物種の抗血清を用いる。
- ジアミノベンチジンでは赤色に発色される。
解説:免疫組織化学染色について、簡単にまとめました。
★免疫組織化学染色
- 免疫組織化学染色の切片の種類
⇒パラフィン切片、凍結切片 - 染色手順
ベーキング(60°C数時間)
↓
脱パラフィン(キシレン、エタノール)
↓
洗浄
↓
抗原賦活化処理
↓
洗浄
↓
内在性POD不活性化処理
(過酸化水素加メタノールや過酸化水素水、過ヨウ素酸水溶液)
↓
洗浄
↓
ブロッキング
↓
一次抗体反応(室温1~2時間)
※乾燥を避けるため、湿潤箱などに入れて反応させる(全行程にて)
↓
洗浄
↓
蛍光標識または酵素標識2次抗体反応(室温1時間)
(一次抗体の宿主動物種とは異なる動物種で産生された抗体を使用する)
ジアミノベンチジン(DAB)にて発色⇒茶褐色を呈する
↓
洗浄
↓
対比染色(ヘマトキシリンなど)
↓
脱水・透徹(エタノール、キシレン)
↓
封入
詳細は教本での確認が必要ですが、簡易的にはこんな流れです。
- ホルマリン固定パラフィン包埋切片は使用できない。⇒できる
- 内因性ペルオキシダーゼ活性の阻害に過酸化水素加メタノールを用いる。⇒正しい
- 一次抗体反応後は洗浄して十分に乾燥させる。⇒湿潤箱が必要
- 二次抗体は一次抗体と同じ動物種の抗血清を用いる。⇒異なる動物種
- ジアミノベンチジンでは赤色に発色される。⇒茶褐色
細かい所が誤った表記になっており、ルーチンで免疫組織化学染色を行っている人以外には中々難しい問題だと思います。
答え:2
国家試験の過去問解説のまとめページです