【国試対策】喀痰・精液検査をマスター!
過去問から学ぶ「痰の色」と「正しい精液検査法」
今回は一般検査から、少し特殊な検体である「喀痰」と「精液」の検査について解説していきます。
📝 引用元について
この記事で解説している国家試験の問題文は、厚生労働省のウェブサイトで公開されているものを、学習目的で引用しています。(医療トピックス一覧に国家試験過去問のリンクがあります)
国試では、それぞれの検体の「特徴的な所見」と「正しい取り扱い方」という、基本にして最も重要な部分が問われているので、ポイントを絞って効率よくマスターしていきましょう!
喀痰検査:呼吸器からのメッセージ
喀痰は、気道から排出される分泌物で、その色や性状、含まれる細胞を調べることで、呼吸器系の病態を推定することができます。
【第67回 午前 問9】特徴的な喀痰の性状
ピンク色泡沫状で漿液性の喀痰が得られた。考えられる疾患はどれか。
- 1.肺癌
- 2.肺梗塞
- 3.肺水腫
- 4.気管支炎
- 5.気管支拡張症
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正解:3.肺水腫
肺水腫は、心不全などが原因で肺の毛細血管から血液の液体成分(血漿)が肺胞内に漏れ出て、肺が水浸しになった状態です。
- 漏れ出た漿液(サラサラの液体)が、呼吸によって空気と混じり合い、泡沫状(泡状)になります。
- さらに、圧力がかかって毛細血管が破れ、少量の赤血球が混じると、漿液がピンク色に染まります。
この2つが合わさることで、「ピンク色泡沫状の漿液性喀痰」という、肺水腫に極めて特徴的な所見が生まれるのです。
【疾患別】特徴的な喀痰の性状 早見表
喀痰の性状 | 関連疾患 |
---|---|
ピンク色泡沫状 | 肺水腫 |
鉄錆色(てつさびいろ) | 肺炎球菌性肺炎 |
粘稠な膿性痰 | 気管支炎、気管支拡張症 |
レンガ色(アンチョビペースト状) | 肺アメーバ症 |
【第68回 午前 問5】喀痰の品質評価 Miller & Jones分類
Miller & Jonesの喀痰肉眼的品質評価分類で、膿性部分が1/2の痰の分類はどれか。
- 1.M1
- 2.M2
- 3.P1
- 4.P2
- 5.P3
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正解:4.P2
このMiller & Jones分類は、その品質を肉眼的に評価するための基準になります。
検査室では、受け取った検体を適正かどうかまず見極めるところからスタートします。
Miller & Jones分類 図解
M = Mucoid (粘液性), P = Purulent (膿性)
M1 (唾液)
M2 (粘液性)
P1 (膿性少量)
P2 (膿性中等量)
P3 (膿性多量)
この問題では「膿性部分が1/2」とあるので、1/3〜2/3の範囲に含まれる「4.P2」が正解となります。
一般的に、培養検査に適しているのはP1〜P3の膿性痰とされています。
肉眼評価の次に行うのが、顕微鏡での品質評価です。
喀痰をグラム染色し、Geckler(ゲックラー)分類(またはQスコア)を用いて、唾液の混入度と炎症の程度を評価します。
グラム染色による喀痰の品質評価(Geckler分類)
弱拡視野(100倍)で平均していくつ見えるかで分類します。
Group 1, 2, 3
(唾液成分が多い)
👤 > ⚪️
扁平上皮細胞 > 白血球
→ 培養には不適
Group 4
(中間の喀痰)
👤 ≒ ⚪️
扁平上皮細胞 ≒ 白血球
→ 培養は可能
Group 5, 6
(質の良い喀痰)
👤 < ⚪️
扁平上皮細胞 < 白血球
→ 培養に最適
(👤:扁平上皮細胞 25個以上, ⚪️:白血球 25個以上)
精液検査:正しい手順と基準値
精液検査は、男性不妊症の診断に不可欠な検査です。精子は非常にデリケートなため、採取から検査までの正しい手順を守ることが、正確な結果を得るための絶対条件となります。
【第70回 午前 問5】精液検査の正しい知識
精液検査で正しいのはどれか。
- 1.2日間連続して採取する。
- 2.検体採取後は冷蔵で保存する。
- 3.精子濃度測定は採取後10分以内に行う。
- 4.運動率の測定は採取後1時間以内に行う。
- 5.精子濃度の基準範囲は150万/mL以上である。
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正解:4
特に精子の運動率は、時間や温度にすごく影響されるから、正しい手順を知っているかどうかが直接、検査の質に関わってきます。
- 禁欲期間が短すぎる/長すぎる → 誤り。
WHOのガイドラインでは、2~7日間の禁欲期間が推奨されています。「2日間連続」では精子数が少なくなり、正しい評価ができません。 - 冷やす → 誤り。
精子は低温に非常に弱いです。採取後は、人肌(20~37℃)で保温して速やかに検査室に運びます。「冷蔵保存」は絶対にNGです。 - すぐに測定する → 誤り。
射出直後の精液は、凝固と液化というプロセスをたどります。通常、30分程度で完全に液化するので、液化を確認してから検査を開始します。「10分以内」では、まだ固まっている可能性が高いです。
各選択肢の解説
- 4.運動率の測定は採取後1時間以内に行う。 → ○(正しい):精子の運動率は時間と共に低下するため、採取後1時間以内に測定を開始することが推奨されています。これが正解です。
- 1, 2, 3:上記の「NGリスト」にある通り、すべて誤りです。
- 5.精子濃度の基準範囲は150万/mL以上である。 → 誤り。
WHOの基準値では、精子濃度の下限値は1,500万/mLです。桁が一つ違います。
精子濃度の下限値は 1,500万/mL
覚え方:「精子は“以後(15)”も元気でGO(00)!」
総運動率の下限値は 40%
覚え方:「運動“しよう(40)”ぜ!」
96%が異常でもOK!? シビアな「正常形態率」の世界
不妊治療の現場では、濃度や運動率だけでなく、「正常形態率」も非常に重視されます。これは、精子の「見た目(頭部、中片部、尾部の形)」が完璧に整っているものが、全体の何%いるかを見る指標です。
正常形態精子
🏃
4% 以上
形態異常精子
🚶♂️
96% 未満
= 正常範囲
現在主流のKrugerの厳密基準(Strict Criteria)という非常に厳しい基準では、完璧な形の精子がたった4%以上いれば、「正常範囲」と判断されます。
精液検査は、ただ数を数えるだけでなく、一匹一匹の「質」まで見極める、とても奥が深い検査です。
まとめ
お疲れ様でした!喀痰と精液、どちらも検体の「鮮度」と「質」が非常に重要な検査であることが分かると思います。
- 喀痰の「色」は病態を語る:特に「ピンク色泡沫状=肺水腫」は鉄板の組み合わせ。鉄錆色(肺炎球菌)やレンガ色(肺アメーバ)など、他の特徴的な性状も覚えておこう。
- 喀痰の「質」を見極める:Miller & Jones分類(肉眼)とGeckler分類(顕微鏡)は、喀痰検査の適否を判断する重要な指標。膿性痰(P分類)が良い検体。
- 精液検査は「時間と温度」が命:禁欲期間は2~7日、採取後は保温して、液化を待ってから1時間以内に検査を開始する、という一連の流れを確実に!
- 精液検査の基準値を語呂合わせで覚える:精子濃度「以後(1500)も元気」、総運動率「運動しよう(40)」!