【国試対策】内分泌・代謝疾患
過去問から学ぶホルモン異常と栄養障害
今回は、臨床検査医学総論の中から、ホルモンの異常や栄養状態に関わる「内分泌・代謝疾患」の分野を、過去問を通して解説していきます!
この記事で、どの疾患でどのホルモンがどう動くのか、どのビタミンが欠乏すると何が起こるのか、というポイントをしっかり押さえて、得点源に変えていきましょう!
代謝疾患
【第69回 午前 問15】メタボリックシンドロームの診断基準に含まれるのはどれか。2つ選べ。
1.総コレステロール 220 mg/dL 以上
2.トリグリセライド 150 mg/dL 以上
3.HDL コレステロール 40 mg/dL 未満
4.LDL コレステロール 140 mg/dL 以上
5.Non-HDL コレステロール 170 mg/dL 以上
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正解:2, 3
必須項目と、3つの選択項目の組み合わせをしっかり覚えましょう!
メタボリックシンドロームの診断基準
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積に加えて、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2つ以上を合併した状態を指します。診断は、必須項目である「ウエスト周囲径」と、3つの選択項目のうち2つ以上が基準値を超えているかで判断します。
メタボリックシンドローム診断基準
必須項目
↓
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| ウエスト周囲径 | 男性 ≧ 85cm 女性 ≧ 90cm |
+
以下の3項目のうち2項目以上
↓
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| ① 血圧 | 収縮期 ≧ 130 mmHg または 拡張期 ≧ 85 mmHg |
| ② 空腹時血糖 | ≧ 110 mg/dL |
| ③ 脂質 | トリグリセライド(中性脂肪) ≧ 150 mg/dL または HDLコレステロール < 40 mg/dL |
各選択肢の解説
この問題では、診断基準の脂質項目について問われています。上の表の③の項目を確認しましょう。
2.トリグリセライド 150 mg/dL 以上 → 正しい:診断基準に合致します。
3.HDL コレステロール 40 mg/dL 未満 → 正しい:診断基準に合致します。
HDLコレステロールは「善玉」なので、低いことがリスクとなります。
1, 4, 5 → 誤り:総コレステロール、LDLコレステロール、Non-HDLコレステロールは、脂質異常症の診断基準には含まれますが、メタボリックシンドロームの診断基準には含まれていません。この違いが国試のひっかけポイントです。
内分泌疾患(ホルモン異常)
【第69回 午後 問13】深夜に血中濃度が高値を示すのはどれか。
1.カテコールアミン
2.成長ホルモン〈GH〉
3.副甲状腺ホルモン〈PTH〉
4.卵胞刺激ホルモン〈FSH〉
5.副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉
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正解:2
国試では、「どのホルモンが、どの時間帯に高くなるか」という組み合わせが問われます。
ホルモンの日内変動パターン
ホルモンの分泌リズムは、主に「早朝にピークを迎え、夜間に低くなる」グループと、「夜間(特に睡眠中)にピークを迎える」グループに分けられます。
ホルモンの日内変動 早見表
| ☀️ 早朝に高値 / 夜間に低値 |
|---|
| ACTH(副腎皮質刺激ホルモン) コルチゾール レニン・アルドステロン カテコールアミン 血清鉄 |
| 🌙 深夜・睡眠中に高値 |
| 成長ホルモン(GH) プロラクチン |
各選択肢の解説
問題文では「深夜に血中濃度が高値を示すのはどれか」と問われているので、上の表の「🌙 深夜・睡眠中に高値」のグループに属するホルモンを探します。
2.成長ホルモン〈GH〉 → 正しい:成長ホルモンは、深い睡眠中(ノンレム睡眠)に最も多く分泌されることが知られています。「寝る子は育つ」というのは、科学的にも正しいのですね。
1.カテコールアミン → 誤り:アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンは、交感神経の活動が高まる日中、特に早朝に高値となります。
5.副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉 → 誤り:ACTHは、それに連動するコルチゾールと共に、早朝(午前6〜8時頃)にピークを迎え、深夜に最も低くなります。
3, 4 (PTH, FSH) → 誤り:副甲状腺ホルモン(PTH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)は、明確な日内変動が少ない、または他の要因(血中Ca濃度や月経周期など)による変動の方が大きいホルモンです。
【第70回 午前 問11】Addison病で高値を示すのはどれか。2つ選べ。
1.血中 ACTH
2.血清カリウム
3.血清ナトリウム
4.血中コルチゾール
5.尿中 17-KS〈17-ケトステロイド〉
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正解:1, 2
この問題を解く鍵は、「副腎皮質ホルモンが減ると、体の中で何が起こるか?」を連鎖的に理解することです。下記に説明をつけますが、ネガティブフィードバックの仕組みが分かっていれば簡単ですよ!
Addison病の病態
Addison病(アジソン病)は、副腎皮質が破壊されるなどして、そこから分泌されるホルモン(コルチゾールとアルドステロン)が慢性的に不足する疾患です(原発性副腎皮質機能低下症)。
Addison病で起こること
🧠 司令塔(下垂体)
↓
「もっとホルモンを出せ!」と
ACTHを分泌亢進 (↑↑)
↓
🏭 工場(副腎皮質)
工場が壊れているため、命令を無視して
コルチゾールとアルドステロンが作れない ↓↓
ホルモン不足による検査所見
コルチゾールとアルドステロンが不足することで、体に様々な変化が起こります。
| 不足するホルモン | 主な働き | 不足するとどうなる? |
|---|---|---|
| コルチゾール | 血糖上昇、抗ストレス | 低血糖、易疲労感 |
| アルドステロン | Na再吸収↑、K排泄↑ | 低Na血症, 高K血症, 脱水, 低血圧 |
各選択肢の解説
以上の知識を元に、選択肢を見ていきましょう。
1.血中 ACTH → 正しい:副腎皮質からコルチゾールが分泌されないため、ネガティブフィードバックがかからず、司令塔である下垂体からACTHが過剰に分泌されます。したがって、血中ACTHは高値を示します。
2.血清カリウム → 正しい:アルドステロンの「K排泄」作用が失われるため、体内にカリウムが溜まり、高カリウム血症となります。
3.血清ナトリウム → 誤り:アルドステロンの「Na再吸収」作用が失われるため、尿中にナトリウムがどんどん捨てられてしまい、低ナトリウム血症となります。
4.血中コルチゾール → 誤り:Addison病は、副腎皮質自体がホルモンを作れなくなる病気なので、血中コルチゾールは低値を示します。
5.尿中 17-KS → 誤り:17-KSは、副腎皮質や精巣から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の代謝産物です。Addison病では副腎皮質のアンドロゲン産生も低下するため、尿中17-KSは低値となります。
ホルモンの分泌は、体内の状態を常に一定に保つための「自動調節システム」によってコントロールされています。その最も重要な仕組みがネガティブフィードバックです。
エアコンの自動運転をイメージしよう!
正常な状態
🌡️
部屋が暑い (ホルモンが足りない)
↓
冷房 ON! (司令ホルモン分泌↑)
↓
部屋が冷える (ホルモンが足りる)
↓
冷房 OFF (司令ホルモン分泌↓)
Addison病の状態
🥵
部屋が暑い (コルチゾール不足)
↓
冷房 ON! (ACTH分泌↑↑)
↓
エアコンが故障中!
↓
部屋が全く冷えない
↓
もっと冷やせ!と冷房 ON のまま!(ACTH高値が続く)
このように、最終産物(部屋の温度 / コルチゾール)が足りないと、それを出すための司令(冷房 / ACTH)が出っ放しになる。これがネガティブフィードバックが働かなくなった状態です。
【第71回 午前 問13】Basedow病で認められるのはどれか。
1.頻 脈
2.便 秘
3.皮膚乾燥
4.フレイル
5.記銘力低下
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正解:1
この問題を解く鍵は、「甲状腺ホルモンが過剰になると、体はどうなるか?」をイメージすることです。全身の代謝が燃え上がっている状態を想像してみましょう!
Basedow病の病態
Basedow病は、TSH受容体に対する自己抗体(TRAb, TSAb)が作られてしまう自己免疫疾患です。この自己抗体が、TSHの代わりに甲状腺を過剰に刺激し続けることで、甲状腺ホルモン(T3, T4)が大量に分泌され、甲状腺機能亢進症となります。
Basedow病で起こること
🔥 全身の代謝が燃え上がる! 🔥
甲状腺ホルモンは、全身の細胞の新陳代謝を活発にする「アクセル」のようなホルモンです。これが過剰になると、体は常に全力疾走しているような状態になります。
甲状腺機能亢進症 vs 低下症
国試では、甲状腺機能「亢進症」と「低下症(橋本病など)」の症状を比較する問題が頻出します。正反対の症状を示すので、セットで覚えるのが効率的です。
| 症状 | 亢進症 (Basedow病) | 低下症 (橋本病) |
|---|---|---|
| 心臓 | 頻脈, 動悸 | 徐脈 |
| 腸 | 下痢 | 便秘 |
| 皮膚 | 発汗過多, 湿潤 | 皮膚乾燥, 浮腫 |
| 体重 | 体重減少 | 体重増加 |
| 精神 | イライラ, 落ち着きがない | 無気力, 記銘力低下 |
※フレイルは加齢に伴う心身の虚弱状態を指し、直接の症状ではありません。
各選択肢の解説
Basedow病は甲状腺機能亢進症なので、全身の代謝が活発になった結果として現れる症状を探します。
1.頻 脈 → 正しい:心臓の拍動が過剰に促進され、脈が速くなります(頻脈)。動悸や息切れも特徴的な症状です。
2.便 秘 → 誤り:腸の動きが活発になりすぎるため、下痢傾向となります。便秘は、逆に腸の動きが鈍くなる甲状腺機能低下症の症状です。
3.皮膚乾燥 → 誤り:新陳代謝が活発になり、発汗が増えるため、皮膚は湿潤傾向となります。皮膚乾燥は、甲状腺機能低下症の症状です。
4.フレイル → 誤り:フレイルは、加齢により心身が衰えた状態を指す老年医学の用語であり、Basedow病の直接的な症状ではありません。
5.記銘力低下 → 誤り:精神活動が過剰に高ぶり、イライラしたり落ち着きがなくなったりします。記銘力低下(物忘れ)や無気力は、甲状腺機能低下症で見られる症状です。
栄養障害(ビタミン欠乏)
【第68回 午前 問15】ビタミン欠乏症について正しいのはどれか。
1.ビタミン A 欠乏で白内障になる。
2.ビタミン B12 欠乏で巨赤芽球性貧血になる。
3.ビタミン C 欠乏で溶血性貧血になる。
4.ビタミン D 欠乏で尿管結石になる。
5.ビタミン E 欠乏で Wernicke 脳症になる。
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正解:2
特に、水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンの分類や、血液疾患と関わるビタミンは必ず押さえておきましょう!
国試で問われるビタミン欠乏症
ビタミンは、体の機能を正常に保つために不可欠な栄養素です。国試では、特定のビタミンが欠乏した時に、どのような特徴的な疾患が起こるか、その正しい組み合わせが問われます。
主要ビタミンと欠乏症 早見表
| ビタミン | 分類 | 主な欠乏症・関連疾患 |
|---|---|---|
| ビタミンA | 脂溶性 | 夜盲症(やもうしょう) |
| ビタミンB1 | 水溶性 | 脚気, Wernicke脳症 |
| ビタミンB12 | 水溶性 | 巨赤芽球性貧血 |
| ビタミンC | 水溶性 | 壊血病(かいけつびょう) |
| ビタミンD | 脂溶性 | くる病(小児), 骨軟化症(成人) |
| ビタミンE | 脂溶性 | 溶血性貧血, 神経症状 |
| ビタミンK | 脂溶性 | 血液凝固異常(出血傾向) |
| 葉酸 | 水溶性 | 巨赤芽球性貧血 |
各選択肢の解説
上の表と照らし合わせながら、各選択肢の正誤を確認していきましょう。
2.ビタミン B12 欠乏で巨赤芽球性貧血になる。 → 正しい:ビタミンB12は、葉酸と共に、正常な赤血球のDNA合成に不可欠なビタミンです。これらが欠乏すると、骨髄で異常に大きな赤芽球(巨赤芽球)が作られ、巨赤芽球性貧血を発症します。これは国試の鉄板知識です。
1.ビタミン A 欠乏で白内障になる。 → 誤り:ビタミンAの欠乏で起こる代表的な疾患は夜盲症です。白内障は、主に加齢が原因で水晶体が濁る病気です。
3.ビタミン C 欠乏で溶血性貧血になる。 → 誤り:ビタミンCの欠乏で起こるのは壊血病です。コラーゲンの生成が障害され、歯茎からの出血などが起こります。溶血性貧血は、ビタミンE欠乏などで見られます。
4.ビタミン D 欠乏で尿管結石になる。 → 誤り:ビタミンDの欠乏では、カルシウムの吸収が低下し、骨がもろくなるくる病や骨軟化症が起こります。尿管結石は、むしろビタミンDの過剰摂取などでカルシウム濃度が上昇した場合にリスクが高まります。
5.ビタミン E 欠乏で Wernicke 脳症になる。 → 誤り:Wernicke脳症は、ビタミンB1の欠乏によって起こります。アルコール多飲者に多い疾患です。
【第70回 午前 問14】欠乏により巨赤芽球性貧血をきたすのはどれか。
1.ビタミン A
2.ビタミン B12
3.ビタミン C
4.ビタミン D
5.ビタミン E
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正解:2
原因となるビタミンは2つ。セットで絶対に覚えておきましょう!
巨赤芽球性貧血とは?
赤血球の元になる赤芽球が、骨髄で正常に成熟(分化・分裂)できなくなり、核の成熟が遅れた巨大な赤芽球(巨赤芽球)が出現する貧血のことです。この原因となるのが、DNAの合成に不可欠な2つのビタミンの欠乏です。
巨赤芽球性貧血の原因
DNA合成の材料不足
🐟⤵︎ 🌱⤵︎
ビタミンB12 と 葉酸 の欠乏
各選択肢の解説
問題文では「欠乏により巨赤芽球性貧血をきたすのはどれか」と問われています。原因となる2つのビタミンを覚えていれば、即答できる問題です。
2.ビタミン B12 → 正しい:ビタミンB12は、葉酸と共にDNA合成の補酵素として働くため、欠乏すると巨赤芽球性貧血を引き起こします。
その他の選択肢(ビタミンA, C, D, E)→ 誤り:これらのビタミンの欠乏では、巨赤芽球性貧血は起こりません。それぞれの欠乏症は以下の通りです。
| ビタミン | 主な欠乏症 |
|---|---|
| ビタミンA | 夜盲症 |
| ビタミンC | 壊血病 |
| ビタミンD | くる病, 骨軟化症 |
| ビタミンE | 溶血性貧血 |
巨赤芽球性貧血では、末梢血に特徴的な所見が見られます。
- 大球性正色素性貧血 (MCV 100 fL以上)
- 過分葉好中球 の出現
- 汎血球減少(貧血だけでなく、白血球や血小板も減少する)
これらの血液像とセットで覚えておくと、血液学の問題にも対応できますよ!
ビタミンの覚え方
でも大丈夫です👍
まずは「どっちが油に溶けて、どっちが水に溶けるか」という大きなグループ分けから始めましょう。
実は、たった4種類の「脂溶性ビタミン」さえ覚えてしまえば、残りは全て水溶性なんです。効率的にいきましょう!
脂溶性ビタミンは「DAKE(だけ)」と覚える!
脂溶性ビタミンは、その名の通り油(脂質)に溶けやすい性質を持ち、体に蓄積されやすいのが特徴です。種類はたったの4つ。アルファベットで覚えましょう!
脂溶性ビタミンのゴロ合わせ
D・A・K・E
脂溶性ビタミンは、これ「だけ」!
| ビタミンD | ビタミンA | ビタミンK | ビタミンE |
|---|
つまり、これ以外のビタミン(ビタミンB群やビタミンC)は、すべて水溶性ビタミンだと判断できます。
【応用編】水溶性ビタミンB群の覚え方
さらに余裕がある人は、水溶性ビタミンの中でも特に重要な「ビタミンB群」の番号と名前を覚えると、国試で差がつきます。これもゴロ合わせで攻略しましょう!
「チーム リーダー ナイフで パン ピッて ビッて よー こら!」
- B1:チアミン
- B2:リボフラビン
- B3:ナイアシン
- B5:パントテン酸
- B6:ピリドキシン
- B7:ビオチン
- B9:葉酸(ようさん)
- B12:コバラミン
まとめ:内分泌・代謝疾患は“キーワード”で攻略!
お疲れ様でした!今回は、臨床検査医学総論の中から「内分泌・代謝疾患」に関する過去問を解説しました。一見、範囲が広く見えますが、国試で問われるのは各疾患の核となるキーワードであることが分かります。
【結論】内分泌・代謝疾患 3つの鉄則
必須項目(腹囲)+TG≧150 or HDL<40
メタボリックシンドロームの診断基準では、脂質項目として問われるのがトリグリセライド(TG)とHDLコレステロールです。LDLコレステロールは含まれない、という点をしっかり押さえましょう。
Basedow病(亢進)とAddison病(低下)の検査所見の違いを明確に!
ホルモンが「出すぎる」病気と「出なくなる」病気では、検査データや症状は正反対になります。Basedow病(甲状腺ホルモン↑)では頻脈・下痢・発汗過多、Addison病(副腎皮質ホルモン↓)では高K血症・低Na血症・ACTH高値、というように対比させて覚えるのが効率的です。
DNA合成に必要なビタミンB12と葉酸の欠乏
巨赤芽球性貧血の原因となるビタミンは、ビタミンB12と葉酸の2つです。これは血液学だけでなく、臨床化学、医学総論でも繰り返し問われる超頻出の知識なので、絶対に間違えないようにしましょう。
この記事が、あなたの苦手意識を克服するキッカケになれば嬉しいです!

