【国試対策】パニック値の覚え方とOTC検査を1記事で攻略!
過去問4問で学ぶ臨床化学
今回は臨床検査総論の範疇である、臨床化学から、「パニック値」と「OTC検査」という、現場の判断力と社会的な役割が問われる2つのテーマを解説していきます。臨床検査総論は臨床化学や、尿検査などの一般検査も含むので、そこの箇所をピックアップしています。
📝 引用元について
この記事で解説している国家試験の問題文は、厚生労働省のウェブサイトで公開されているものを、学習目的で引用しています。(医療トピックス一覧に国家試験過去問のリンクがあります)
でも、大切なのは「なぜその数値が危険なのか」という臨床的な意味を理解することです。ただの数字じゃなくて、患者さんの命に関わる情報として、自然と頭に入ってくるようになるはずです。
この記事で、その「なぜ?」を一緒に解き明かしていきましょう!
パニック値:命を救うための緊急報告
パニック値(緊急異常値)とは、「直ちに治療を開始しないと、患者の生命が危険にさらされる可能性のある、極端な検査値」のことです。僕たち臨床検査技師は、この値を検出したら、ただちに主治医や担当部署に報告する義務があります。
【第70回 午後 問4】パニック値の「概念」を理解する
パニック値で誤っているのはどれか。
- 1.基準は施設ごとに異なる。
- 2.生理機能検査が含まれる。
- 3.対応不可能な値のことである。
- 4.生命に危険がある値のことである。
- 5.報告方法はあらかじめ取り決めをしておく。
ここをクリックして答えと解説を見る
正解:3.対応不可能な値のことである。
3. 対応不可能な値のことである。 → ×(誤り)
これが誤りです。パニック値は「対応不可能」なのではなく、「直ちに対応(治療)が必要」な値です。僕たちが緊急報告するのは、まさに医師にすぐ対応してもらうため。もし対応不可能なら、報告する意味がなくなってしまいますよね。
【その他の選択肢】なぜ正しいのか?
1.基準は施設ごとに異なる。 → ○(正しい)
パニック値の具体的な数値は、学会などからガイドラインは出ていますが、最終的には各医療機関が、自施設の患者層や診療科の特性を考慮して設定します。
2.生理機能検査が含まれる。 → ○(正しい)
血液検査や尿検査だけでなく、心電図の危険な波形(心室細動など)や、脳波の異常などもパニック値(パニック所見)として緊急報告の対象になります。
4.生命に危険がある値のことである。 → ○(正しい)
これがパニック値の定義そのものです。
5.報告方法はあらかじめ取り決めをしておく。 → ○(正しい)
誰が、誰に、どのように(電話、電子カルテなど)、何を報告し、どう記録を残すか、というルール(報告手順)をあらかじめ明確に定めておくことが、確実で迅速な対応のために不可欠です。
【第69回 午前 問2 / 第71回 午前 問8】具体的なパニック値を判断する
パニック値として報告すべきなのはどれか。(第69回)
- 1.K 7.0mmol/L
- 2.Na 130mmol/L
- 3.LD 300U/L
- 4.血小板数 50万/μL
- 5.ヘモグロビン 15.0g/dL
パニック値対応となるのはどれか。(第71回)
- 1.ALP 300U/L
- 2.カルシウム 10.8mg/dL
- 3.グルコース 200mg/dL
- 4.ナトリウム 175mmol/L
- 5.総コレステロール 300mg/dL
ここをクリックして答えと解説を見る
【上問】正解:1
【下問】正解:4
【上問の解説】特に危険な高カリウム血症
1.K 7.0mmol/L → ○(パニック値)
高カリウム(K)血症は、致死性の不整脈(心室細動や心停止)を引き起こす、最も緊急性の高い電解質異常の一つです。基準値(約3.5~5.0)を大きく超えるこの値は、まさに一刻を争うパニック値です。
【その他の選択肢】
Na 130 (軽度低Na血症)、LD 300 (軽度上昇)、血小板 50万 (高値)、Hb 15.0 (正常範囲) はいずれも緊急報告を要するほどの異常ではありません。
【下問の解説】重篤な意識障害を招く高ナトリウム血症
4.ナトリウム 175mmol/L → ○(パニック値)
高ナトリウム(Na)血症は、重篤な高張性脱水を意味し、脳細胞の水分が失われることで意識障害や昏睡に至る可能性があります。基準値(約135~145)を大きく逸脱するこの値も、緊急治療が必要なパニック値です。
【その他の選択肢】
ALP 300、Ca 10.8、グルコース 200、総コレステロール 300はいずれも異常高値ですが、ただちに生命を脅かすレベルではありません。
臨床化学検査総論:検査の社会への広がり
近年、病院だけでなく、薬局や自宅で手軽にできる検査が増えています。それが「OTC検査」です。
【第70回 午前 問1】薬局で買える「OTC検査」
Over the counter〈OTC〉検査で実施されるのはどれか。2つ選べ。
- 1.血糖
- 2.尿蛋白
- 3.中性脂肪
- 4.HIV抗体
- 5.尿中hCG
ここをクリックして答えと解説を見る
正解:2, 5
OTC (Over The Counter) とは?
OTCとは、医師の処方箋なしにカウンター越しに購入できることを意味します。OTC医薬品(一般用医薬品)と同じで、薬局などで購入し、自分で実施できる検査のことです。
【正解の選択肢】
2.尿蛋白 / 5.尿中hCG → ○ (OTC検査)
薬局で売っている尿試験紙や妊娠検査薬をイメージしてください。これらは、尿中のタンパク質やhCG(妊娠すると出るホルモン)を自分で簡単に調べられる代表的なOTC検査です。
【不正解の選択肢】
1.血糖 → ×(自己検査用だがOTCとは少し違う)
血糖自己測定器は広く普及していますが、これは医師の指導のもとで使用される「医療機器」であり、薬局で自由に購入できるOTC検査とは分類が異なります。
3.中性脂肪 / 4.HIV抗体 → ×(専門家による検査が必要)
中性脂肪は食事の影響を大きく受けるため、結果の解釈に専門的な知識が必要です。また、HIV抗体検査は、陽性だった場合の精神的影響が非常に大きく、専門家によるカウンセリングが不可欠なため、OTC検査にはなっていません(保健所などで匿名・無料で検査が受けられます)。
まとめ
お疲れ様でした!パニック値とOTC検査、どちらも臨床検査技師の専門性と社会的な役割に関わる重要なテーマです。
- パニック値は「命の危険信号」:ただの数字ではなく、その裏にある患者さんの危険な状態(心停止、意識障害など)を想像する力が重要。基準は施設ごとに異なるが、特にK、Na、グルコース、Caなどの緊急性は必ず押さえる!
- パニック値は「アクション」のための情報:「対応不可能」な値ではなく、「至急対応が必要」な値であると理解する。迅速かつ正確な報告が、チーム医療の一員としての僕たちの責務です。
- OTC検査は「セルフメディケーション」の一環:薬局で買える妊娠検査薬や尿試験紙が代表例。結果の解釈が単純で、専門家の判断を必要としないものがOTC検査の条件。
その重みを理解し、責任感を持って仕事に取り組む。今日の学びが、そんなプロフェッショナルになるための第一歩になるはずです。