【国試対策】安全管理・感染対策パーフェクト解説
標準予防策から医療廃棄物まで
国家試験の勉強、本当にお疲れ様です。
僕も学生時代、国試模試で最高得点90点という、絶望のE判定を取ってしまい、目の前が真っ暗になった経験があるので、皆さんの不安な気持ちはよく分かります。でも、大丈夫です!基礎的で重要な分野を一つひとつ着実に固めていけば、必ず結果はついてくるはず!
この記事を読み終える頃には、その重要性が分かり、確かな知識が身についているはずです。一緒に頑張りましょう!
すべての基本原則「標準予防策(スタンダードプリコーション)」
まず最初に、絶対に押さえるべき概念が「標準予防策」です。これは、感染症の有無を問わず、「すべての患者の血液、体液、分泌物、排泄物、創傷のある皮膚・粘膜は、感染性のあるものとして取り扱う」という、医療安全における大原則です。
【第68回 午後 問2 / 第71回 午後 問10】頻出!標準予防策の「例外」とは
標準予防策において感染性を考慮しない体液・分泌物はどれか。
- 1.汗
- 2.尿
- 3.髄液
- 4.精液
- 5.唾液
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正解:1.汗
1. 汗(なぜ対象外なのか?)
汗が標準予防策の唯一の例外である理由は、汗腺から分泌される汗自体が、感染性病原体を含むことが極めて稀だからです。皮膚の常在菌などが混入することはあっても、感染症を引き起こすほどの病原体を含むリスクは非常に低いとされています。
【注意点】
これはあくまで「創傷のない健常な皮膚から出る汗」に限られます。もし皮膚に傷があり血液が混じっていたり、何らかの膿が混じっていたりする場合は、当然ながら感染性物質として扱います。
2. 尿(なぜ対象なのか?)
健常者の膀胱内の尿は無菌ですが、尿道を通って排泄される過程で、尿道口付近の常在菌が混入します。それだけでなく、尿路感染症の患者さんの尿には、大腸菌などの起炎菌が大量に含まれています。
また、肉眼では見えなくても血液が混入している(顕微鏡的血尿)可能性も常にあります。B型肝炎ウイルス(HBV)やサイトメガロウイルス(CMV)なども尿中に排泄されることがあるため、尿は常に感染性のあるものとして扱います。
3. 髄液(なぜ対象なのか?)
髄液は、本来であれば血液脳関門に守られた完全な無菌的部位です。しかし、検査の対象となるのは、多くの場合「髄膜炎」が疑われる患者さんです。細菌性髄膜炎であれば、髄液中には肺炎球菌や髄膜炎菌などの危険な細菌が含まれています。ウイルス性髄膜炎でも同様です。そのため、髄液は極めて感染リスクの高い検体として、厳重に取り扱う必要があります。
4. 精液(なぜ対象なのか?)
精液は、性感染症(STD)の主要な感染媒体です。HIV(エイズウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)、淋菌、クラミジア、梅毒トレポネーマなど、多くの重要な病原体が含まれる可能性があります。
5. 唾液(なぜ対象なのか?)
唾液には、口腔内常在菌はもちろん、様々なウイルスが含まれる可能性があります。ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、EBウイルス(伝染性単核球症)、サイトメガロウイルス、そしてインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器系ウイルスも唾液中に排泄されます。
状況に応じた追加策「感染経路別予防策」
標準予防策がすべての基本となる土台です。その上で、病原体の感染経路に合わせて、さらなる追加の防御策を講じるのが「感染経路別予防策」です。国家試験では、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つの経路と、それぞれに該当する疾患・対策の組み合わせが頻繁に問われます。
【第67回 午前 問8】三大空気感染症は必ず暗記!
空気感染予防策を必要とするのはどれか。2つ選べ。
- 1.結核
- 2.水痘
- 3.風疹
- 4.百日咳
- 5.流行性耳下腺炎
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正解:1.結核、2.水痘
正解はもちろんですが、なぜ他の選択肢が「飛沫感染」に分類されるのか、その違いを明確に言語化できるようになることが、この問題をマスターする鍵になります。各選択肢を詳しく見ていきましょう。
「空気感染」と「飛沫感染」の決定的な違いは、病原体を含む粒子の大きさです。
- 空気感染:病原体が5μm以下の非常に小さな粒子(飛沫核)に含まれます。この粒子は軽く、長時間(数時間〜数日)空気中をフワフワと漂うため、広範囲に拡散します。換気が悪いと、病原体がいなくなった後でも、その空間にいるだけで感染するリスクがあります。
- 飛沫感染:病原体は5μmより大きい飛沫に含まれます。粒子が大きく重いため、咳やくしゃみで放出されても、重力ですぐに落下し、遠く(概ね1〜2m)までは届きません。
1. 結核(空気感染の代表格)
結核菌は、咳などで排出された後、水分が蒸発して「飛沫核」という非常に小さな粒子になります。この飛沫核が空気中を長時間浮遊するため、典型的な空気感染症とされています。
そのため、肺結核が疑われる患者さんには、標準予防策に加えて空気予防策が必須です。具体的には、医療従事者は微粒子を捕集できるN95レスピレーター(マスク)を装着し、患者は室内の空気が外に漏れないよう制御された陰圧個室に隔離されます。
2. 水痘(空気感染+接触感染の二刀流)
水痘(みずぼうそう)の原因である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)も、結核菌と同様に飛沫核を形成し、空気感染します。したがって、結核と同様に空気予防策(N95マスク、陰圧個室)が必要です。
さらに、水痘の特徴は接触感染も起こす点です。皮膚にできる水疱(水ぶくれ)の内容液にはウイルスが大量に含まれており、これを直接的・間接的に触れることでも感染します。そのため、接触予防策(手袋、ガウンの着用)も同時に必要となる、対策が重要な疾患です。
3. 風疹 / 4. 百日咳 / 5. 流行性耳下腺炎(飛沫感染の代表)
これら3つの疾患は、すべて飛沫感染によって伝播します。病原体を含む飛沫は比較的大きく、すぐに落下するため、空気中を長時間漂うことはありません。
したがって、これらの患者さんに対応する際の追加策は飛沫予防策となります。具体的には、患者から1〜2m以内でケアを行う際にサージカルマスクを着用します。N95マスクや陰圧個室までは必要ありません。
【第71回 午後 問8 / 第69回 午前 問8】知識の応用力が試される問題
疾患と予防策の組合せで適切なのはどれか。(第71回 午後 問8)
- 1.疥癬 – 患者の陰圧個室隔離
- 2.水痘 – 医療従事者のN95マスク着用
- 3.梅毒 – 医療従事者のフェイスシールド着用
- 4.肺結核 – 患者のカーテン隔離
- 5.マイコプラズマ肺炎 – 医療従事者のワクチン接種
標準予防策に追加の感染予防策が必要な感染症はどれか。(第69回 午前 問8)
- 1.梅毒
- 2.B型肝炎
- 3.C型肝炎
- 4.帯状疱疹
- 5.HIV感染症
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【上問】正解:2
【下問】正解:4
「なぜその対策が必要で、なぜ他の対策ではダメなのか?」という視点で、選択肢を一つずつ解剖していきましょう!
【第71回 午後 問8】の選択肢を深掘り
1.疥癬 – 患者の陰圧個室隔離 → ×
疥癬(かいせん)はヒゼンダニというダニが原因で、感染経路は接触感染です(特に長時間、肌と肌が直接触れるような濃厚接触)。したがって、必要な追加策は接触予防策(手袋、ガウンの着用)です。陰圧個室は空気感染対策なので、過剰であり不適切です。
2.水痘 – 医療従事者のN95マスク着用 → ○
これが正解です。水痘は空気感染を起こす代表的な疾患です。そのため、医療従事者は高性能なN95マスクを着用する必要があります。
3.梅毒 – 医療従事者のフェイスシールド着用 → ×
梅毒は主に血液や体液を介して感染するため、標準予防策で対応します。針刺し事故などに注意し、血液などが飛散するリスクがある場面ではもちろん防護具を使いますが、「梅毒だから必ずフェイスシールドが必要」というわけではありません。状況に応じた判断となり、この組み合わせは適切とは言えません。
4.肺結核 – 患者のカーテン隔離 → ×
肺結核は空気感染の代表格です。飛沫感染対策であるカーテン隔離では全く不十分で、専門の陰圧個室への隔離が必須です。
5.マイコプラズマ肺炎 – 医療従事者のワクチン接種 → ×
マイコプラズマ肺炎は飛沫感染で伝播します。予防策は飛沫予防策(サージカルマスク着用など)です。そして、残念ながらマイコプラズマ肺炎に対する実用化されたワクチンは現在のところありません。
【第69回 午前 問8】の選択肢を深掘り
この問題は、「標準予防策だけで対応できるか、それとも追加の感染経路別予防策が必要か」を見極めることがポイントです。
1, 2, 3, 5.梅毒, B型肝炎, C型肝炎, HIV感染症 → ×
これらはすべて、主な感染経路が血液や特定の体液である血液媒介感染症です。空気中を漂ったり、通常の接触で簡単に感染したりするわけではありません。
したがって、これらの疾患は、すべての患者に適応される標準予防策(手袋の着用、針刺し防止策の徹底など)を遵守することで、感染リスクを適切に管理できます。特別な追加策(空気・飛沫・接触予防策)は通常必要ありません。
4.帯状疱疹 → ○
これが正解です。帯状疱疹の原因ウイルスは、水痘と同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)です。
- 局所性帯状疱疹(通常): 発疹が出ている部分にウイルスがいるため、接触感染のリスクがあります。→ 接触予防策を追加する必要があります。
- 播種性帯状疱疹(免疫不全者など): ウイルスが血液に乗って全身に広がり、肺にまで達すると、呼吸によってウイルスが排出され空気感染を起こすリスクがあります。→ 空気予防策+接触予防策が必要になります。
いずれのケースでも、標準予防策に何らかの追加策が必要となるため、これが正解となります。
派生知識まとめ:疾患別・必要な予防策一覧
疾患名 | 主な感染経路 | 必要な予防策 |
---|---|---|
結核、水痘、麻疹 | 空気感染 | 標準 + 空気予防策 (+接触) |
帯状疱疹 | 接触 (+空気) | 標準 + 接触予防策 (+空気) |
インフルエンザ、風疹など | 飛沫感染 | 標準 + 飛沫予防策 |
疥癬、MRSAなど | 接触感染 | 標準 + 接触予防策 |
B/C型肝炎、HIV、梅毒 | 血液・体液媒介 | 標準予防策で対応 |
検査室業務に関連する安全管理知識
最後に、日常業務に直結する重要な知識を2点確認しましょう。
【第67回 午前 問10】バイオハザードマークの色分け
黄色のバイオハザードマークが貼付されている容器に廃棄するのはどれか。
- 1.開封した注射針
- 2.血液が入った採血管
- 3.痰が入った採取容器
- 4.血液が付着したガーゼ
- 5.採血時に用いた酒精綿
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正解:1.開封した注射針
なぜなら、鋭利なものを間違った容器に捨てると、ゴミ袋を交換する清掃員の方などが針刺し事故を起こす危険があるからです。一度のミスが他人の人生を変えてしまうかもしれない。だからこそ、廃棄物の分別は絶対に間違えてはいけないんです。
バイオハザードマークの色分けは、廃棄物の「性状(形状)」で決まります。
各選択肢を仕分けしていきましょう!
1. 開封した注射針 → 黄色マーク
これが正解です。注射針、メス、割れたガラス器具、スライドガラスなど、「鋭利なもの」はすべて、貫通しにくい頑丈な専用容器に廃棄します。作業者の針刺し・切創事故を防ぐための最重要ルールです。
2. 血液が入った採血管 / 3. 痰が入った採取容器 → 赤色マーク
血液や痰は、「液状または泥状のもの」に分類されます。これらが入った容器は赤色マークの容器へ。遠心分離後の血漿や血清、培養液なども同様です。
「血液が付着したガーゼ(固形)」は橙色
「血液そのものが入った採血管(液体)」は赤色
この違い、分かりますか?
中身の性状で判断するのがポイントです!
4. 血液が付着したガーゼ → 橙色マーク
血液が付着したガーゼや手袋、エプロンなどは、感染性廃棄物の中でも「固形状のもの」に分類されます。そのため、橙色マークのついた容器に廃棄します。
5. 採血時に用いた酒精綿 → 非感染性廃棄物
これは少し引っかけの選択肢です。採血前の皮膚消毒に用いた酒精綿には、血液は付着しないため、感染性廃棄物ではなく「非感染性廃棄物(普通の事業ゴミ)」として扱われるのが一般的です。
※ただし、採血後の止血に使い、血液が明らかに付着した場合は、選択肢4と同様に橙色マークの対象となります。
派生知識まとめ:感染性廃棄物の分類
マークの色 | 廃棄物の性状 | 具体例 |
---|---|---|
🔴 | 液状・泥状のもの | 血液、血清、体液、培養液、臓器など |
🟡 | 鋭利なもの | 注射針、メス、割れたガラス、スライドガラスなど |
🟠 | 固形状のもの | 血液が付着したガーゼ・手袋、使用済みディスポ器具など |
自分のため、そして見えないところで働いている多くの人々のためにも、この知識は絶対に間違えないようにしましょう!
【第69回 午前 問9】起炎菌を特定しやすい検体とは
培養検査で検出された細菌が起炎菌である可能性の最も高い検体はどれか。
- 1.便
- 2.喀痰
- 3.髄液
- 4.自然尿
- 5.鼻咽頭粘液
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正解:3.髄液
この視点を持つことは、培養結果を正しく解釈し、臨床に貢献するために不可欠なスキルになります。
この問題の解く鍵は「本来、無菌であるかどうか」です。私たちの体は、部位によって細菌との関係性が全く異なります。
- 無菌的部位:血液、髄液、胸水、腹水、関節液など。強力なバリア機能で守られており、健康な状態では細菌は絶対に存在しません。
- 常在菌叢が存在する部位:皮膚、口腔、鼻腔、消化管(便)、膣など。多種多様な細菌(常在菌)がバランスを保ちながら共生しています。
この前提を踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。
3. 髄液 → 無菌的部位
これが正解です。髄液は血液脳関門という非常に強力なバリアで守られた「聖域」であり、完全に無菌です。
もし髄液の培養検査で細菌が検出された場合、それは100%異常事態を意味します。その細菌は、髄膜炎などの重篤な感染症を引き起こしている「動かぬ証拠(起炎菌)」と断定できるのです。そのため、臨床的な価値が極めて高い検体と言えます。
1. 便 / 2. 喀痰 / 4. 自然尿 / 5. 鼻咽頭粘液 → 常在菌叢が存在
これら4つの検体はすべて、多数の常在菌が存在する部位から採取されます。そのため、培養で細菌が検出されても、それが「たまたまそこに住んでいる常在菌」なのか、「病気を引き起こしている悪玉菌(起炎菌)」なのかを慎重に判断する必要があります。
1.便:
腸内には数百種類、100兆個以上もの腸内細菌がいます。便培養では、この中から赤痢菌やサルモネラ、O-157といった特定の病原菌だけを選択的に見つけ出すための特殊な培地(選択培地)を使います。
2.喀痰 / 5.鼻咽頭粘液:
気道や鼻腔にも多くの常在菌が存在します。さらに、これらの検体は採取時に唾液が混入しやすく、口腔内の常在菌(いわゆる雑菌)が大量に培養されてしまうことがあります。そのため、臨床検査技師はグラム染色で痰の質を評価(喀痰の品質評価)し、本当に起炎菌を見つけられる質の良い検体かを見極めるスキルが求められます。
4.自然尿:
膀胱内は無菌ですが、尿道や外陰部には常在菌がいます。自然に排尿された尿(自然尿)は、採取時にこれらの常在菌が必ず混入してしまいます。そのため、尿培養では「一定量(例: 10^5 CFU/mL)以上の菌が検出されたか」という量的な基準で、感染症かどうかを判断します。
まとめ【結論】安全管理・感染対策 4つの鉄則
今日学習した内容は、臨床検査技師として働く上での「安全行動の憲法」です。
以下の4つの鉄則は、必ず頭に叩き込んでおきましょう。
「汗を除く、すべての湿性生体物質は感染源である」
すべての基本となる考え方です。検体に触れる際は、常にこの原則を思い出し、適切な個人防護具(手袋など)を着用する習慣をつけましょう。「たぶん大丈夫だろう」という油断が、最も危険です。
特に「空気感染=結核・水痘・麻疹」は絶対暗記!
病原体の感染経路(空気・飛沫・接触)に応じて、N95マスクやガウンなどの追加策を判断する能力が求められます。特に最も厳重な対策が必要な空気感染の代表疾患は、必ずセットで覚えておきましょう。
赤(液体)、橙(固形)、黄(鋭利)
感染性廃棄物の分別は、自分だけでなく、廃棄物を処理するすべての人々の安全を守るための重要な責務です。特に、針刺し事故を防ぐための「鋭利なものは黄色」は、絶対に遵守してください。
「無菌的部位(血液・髄液など)からの菌=起炎菌」
微生物検査において、本来菌がいないはずの場所から検出された菌は、極めて高い臨床的価値を持ちます。検体の由来を常に意識することで、培養結果の解釈の精度が格段に上がります。